ヨシムラ
Z1000の基本構成を持ちながらZ1000に負けない存在感のあるスタイリングと、誰でも高いポテンシャルがとことん味わえるNinja 1000。しかも走行ペースやタンデム走行などといったシチュエーションを問わず、快適で楽しいロングランを約束する欲張り派だ。
ブランドを名乗るにふさわしい懐の深さ
パッと見た瞬間、Ninja ZX-10Rのアップ・ハンドル仕様か、と思ったほどNinja 1000の粋でレーシーなスタイルに驚いた。ベースモデルのZ1000のスポーツネイキッドもエッジが効いていてインパクトが大きかったけれど、Z1000をベースにしたバイクとは思えないほどNinja 1000は独自の存在感を持つスタイリッシュ・バイクに仕上がっている。
しかも、奇をてらうデザインとはせずに、独自のスタイルを築き上げている。フロント側に質量感を与えながら車体がコンパクトに見えすぎないところもまた大きな魅力。リヤはまさにスーパースポーツ的にキリッと引き締まった緊張感がある。リッターバイクらしい押し出しとスポーティさの両立をみせるのだ。
スーパースポーツの走りは欲しいけど、リッターバイクらしい存在感も欲しい。けれど前傾姿勢がきついのはダメ。乗りやすく緩やかなネイキッドの乗り味も捨てがたい。つまり、Ninja 1000は、いいところ全部取りという欲張りな作り込みを狙ったと判断できる。
開発者の「Z1000のすばらしい走りを少しでも多くの人に味わっていただきたいという思いがNinja 1000の開発のベースにあるんです」という言葉が印象的だった。
結論から言えばNinja 1000はZ1000のキビキビした走りをそのままにタンデム走行を含めた快適性・ツーリングの実用性を大幅にアップした味わい深いスタイリッシュ・スポーツであるのだ。
まずはワインディングでのNinja 1000。Ninja ZX-10Rよりも速い!というと大袈裟に思われるかもしれないが、そう思えるほどできがすばらしい。大半のライダーならこの扱いやすさによって、まったく気負うことなく安全に速く、しかも楽しく走れてしまうだろう。
スーパースポーツ系はそのハイポテンシャルゆえに実にイージーに加速・減速・旋回してくれる。だが限界付近の高い速度域になると一気に異次元の加減速力・旋回力のために一瞬でも気が抜けないし、相応のテクニックがそこで強く要求される。
でも、高い集中力がたもてるときはいいが長時間にわたる継続はムリであるし、また公道でスーパースポーツ本来の走りを強く求めるのはさけるべきともいえるだろう。簡単に異次元の速度域に至るスーパースポーツ車はむしろ速度を大きく控える真の勇気が必要となる。でも、それがかえってストレスを生みかねない。その意味でもNinja 1000は現実的でクレバーなスタンスを持つバイクといえる。
限界速度そのものはNinja ZX-10Rに及ばないものの、快適な走行環境によって長時間の低疲労・高い集中力維持というメリットを生む。これが目的地到達時間の短縮を約束する、飛ばさなくても速いバイクなのである。しかも、あらゆるペースで“退屈”を感じることのないエンジン、車体、サスペンション、ブレーキをたくみにまとめ上げている。
それをまず証明しているのがライディングポジション。スリムな車体構成によって足着き性は悪くないうえにステップが邪魔しない位置にセットしてあるために足が出しやすい。ハンドル幅はやや狭めで軽く前傾になる位置。張りのある面構成を持つサイドカウルの形状によってヒザまわりの防風性も高い。
直線を走っているときのシートのクッション性だけではなく、シートアングルも良好。前傾すぎないし、シート幅も動きやすさを確保しながらほどよい面積を持っている。ステップからの振動の少なさも魅力。それでいて踏ん張ってもほどよいダイレクト感が確保されている。
つねに大きなツーリングバイクを持て余す感覚もない。快適でありながら基本テイストはやはりスーパースポーツに限りなく近いZ1000の流れを持っている。
燃料タンクについても容量を確保するためにタンク上方をアップさせているのだが上体前傾のほか左右へのリーン時などライダーの動きを邪魔しない形状になっている点も評価したい。腰をイン側に大きく落としたときのヒザまわりの収まりがいいのだ。ハンドル幅や高さだけではなく絞り角、たれ角とも市街地、高速、ワインディングのいずれのシーンにおいても動きを妨げない絶妙の設定となっている。
ライディングポジションで何よりも魅力なのは3段階手動調整可能なウインドスクリーンを装備している点だ。カウルやスクリーンが大きすぎるとスポーツライディングで攻めているときの視界やフットワークが悪くなる。だがスクリーンが小さいと防風効果は期待できない。Ninja 1000はスクリーンをいずれの角度で設定しても相応の効果があり、視界を邪魔しないまさに絶妙の大きさと角度を持つのだ。
Ninja 1000のライディングポジション
>>> 次ページ 気負うことなくラクに安全かつ速く走れる
柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
https://kashiwars.com