ヨシムラ
凶暴な性格を隠す穏やかなフィーリング
今のバイクは、なんて曲がりやすいのか。磐梯山(福島県)周辺のワインディングで、コーナリング性能の高さをとことん思い知らされた。曲がりたい方向をしっかりと見て、イン側にしっかりと体重移動すれば、自動旋回装置が付いているかのごとく、すんなり曲がっていくのだ。
自動旋回装置並みのコーナリング以上に驚いたのが、トルクの豊かさだ。なにがすごいかって、一つのギヤが担当する回転域の守備範囲がとても広いということ。通常、コーナリングする時は、“コーナー進入手前でシフトダウン→ギヤを一定のまま旋回→立ち上がりで加速してシフトアップ”という流れをたどる。ところがNinja ZX-6Rの場合、それらの工程を一つのギヤでカバーでき、旋回中は安定していて、立ち上がりでスロットルを急に回しても、拍子抜けすることなく加速していく。その一つのギヤが何速なのかは、シチュエーションによって異なるが、今回走った磐梯山ゴールドライン、磐梯吾妻レークライン、磐梯吾妻スカイラインのようなワインディングであれば、3速ですべてをまかなえる。ギクシャクすることなくスムーズに、そして力強くだ。今のバイクならギヤの守備範囲が広いということは、めずらしいことではないが、Ninja ZX-6Rはこの性能が他を抜きん出てすぐれている。
ここでまた、電子制御機能の体感エピソードを一つ紹介しよう。KTRCはウイリーもコントロールしてしまう。試したのはウイリーを完全に抑制するモード3。発進の時やコーナーの立ち上がりなど、スロットルをどんなに急に回しても絶対にウイリーしない。スロットルを急に回しているつもりでも、実はウイリーするくらいスロットルを回せてないんじゃないの?と、勘ぐる読者のためにひと言。液晶パネルのKTRCモード表示の右側は、KTRCが作動すると液晶バーが伸びるように設定されているのだ。そのため、KTRCの作動状態が不明確な時でも、液晶パネルで視覚的に作動状態を把握できるのだ。俺の名誉のためにも言っておくと、ウイリーチャレンジや、殺生石に行くまでのダートでも、確かにそのバーが伸びていた。
ここで言いたいのは、俺がスロットルを急に回すことができたということではない。KTRC本来の性能を引き出せたかどうかは別として、公道でも、お遊びでも、現代の最先端を行く電子制御機能をしっかりと体感できるということだ。しかも、KTRCは違和感なく自然に働く。だからこそ、液晶パネルに作動状況が表示されるのだが。
電子制御だけでなくエンジンや車体を含め、あらゆる操作がスムーズ。ある操作に対して、ある機能が作動する中間にダンパーが付いているかのよう。積極的に操作しても、機能が突発的に作動せず、ジワッと作動する。Ninja ZX-6Rはローパワーモデルではなく、サーキット走行を想定した生粋のスーパースポーツだ。それでいて、このなめらかさは驚きだ。
ただし言っておく。走りについてさんざん語っておいてなんだが、俺はNinja ZX-6Rの性能の1割も引き出せていない。誰もがワインディングでギヤチェンジを駆使したり、エンジンをぶん回したりしながら、コーナリングを楽しみたいだろう。でもNinja ZX-6Rではそれは無理だ。俺はさっき3速だけでワインディングを楽しめると書いた。でもNinja ZX-6Rは3速で200㎞/hも出てしまうのだ。そんなモデルに乗って、1速から6速までをフルに使ってワインディングを走ろうなんて、まったくもって不可能なこと。エントリーモデルなんてとんでもない。Ninja ZX-10Rの下で黙っている器じゃない。納車した後、市街地やワインディングをちょこっと走って、「おや、扱いやすい…」と感じたからといって、スロットルを大きく回してみたらどうなるか。走りのド迫力にビックリ仰天すること間違いなしだ!