ヨシムラ
ワインディングを駆れ! 遥か地平線も目指せ!
このきっちり楽しめる背景にはトラクションコントロール機能がある。通常走行では常にモード1を保持し、より多めのスリップを楽しみたいならモード2。さらに自在なパワーフィールを堪能するならオフにする。
直4でダート走行すると後輪が滑りやすいのではないか。ツインの方がグリップがいいのではないかという疑問があるだろう。しかし、モード2でほどよくトラクションコントロールが作動するのでダートで4気筒が不利とはならない。トラクションコントロールがいちばん効いているモードによるダート走行は楽しくないことがよくあるのだが、カワサキはモード2のトラクションコントロール作動中でも安全かつ楽しい。
モード1では後輪がかなり流れる状態に変化したが、実にバランスよく車体の安定性が保てる。これは直4が生むクランク幅に加えて、パワーの出方がスロットル操作にリニアな反応をするためと思われる。ツインだと低中速回転域が充実しすぎてかえって過剰な滑り出しが生まれることがあるが、ヴェルシス1000の場合はむしろトラクションコントロールモード1と2でもエンジン特性が見事にシンクロしていて乗りやすくて楽しいのだ。
トラクションコントロール3はもっともスリップを抑える設定だ。そしてトラクションコントロールをオフにした場合、狭い林道ではコントロール不能となりやすい。絶対的な質量もあるので、見通しが悪い林道でのハイペース走行は控えた方が賢明だろう。高回転ではエンジンの振動が大きめになってさらにエキサイトする感じでもあるが、いずれのモードでもヴェルシス1000は大きさを感じさせず、パワーが思いのほか引きだしやすく、我を忘れてしまうほどダートが楽しい。
ダートであらためて魅力を感じたのはエンジンだけではない。スタンディング時のタンク幅が絶妙で上体を前へ持っていきやすいのだ。ハンドルの高さも幅もステップ位置も絶妙の設定で日本人にもフィットする。
しかも前後サスペンションがしっかりと仕事をしてくれる。ボトムになりにくいし、ボトム時こそ危険な状態になることを知っての踏ん張り感のある前後サス設定となっている。
一見するとライバル他車よりもダート性能が低いと想像しがちだが、実はその真反対。直4でよくぞここまで!といえるほどのまとまり。しかも、このまとまりがワインディングでの乗りやすさと連結している。
オンロードでまとめて後からオフロード性を加えたのではなく、あたかもオフロードでのポテンシャルを確保した上でオンロード性能をまとめたかのようなできばえだ。
ヴェルシス1000は、まさにビッグオフという新たなジャンルへ果敢に飛び込むカワサキの意気込みが感じられる出色のできばえを見せたのだ。普段のワインディングもこれならいける! はるか地平線を目指す旅する道具としてもすばらしい。まさにコストパフォーマンスにすぐれるバイクだ。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
https://kashiwars.com