ヨシムラ
快適なポジションに長いサスペンションストローク。扱いやすいエンジン特性。あらゆる道を延々と走り続ける旅の道具としてビッグオフは魅力的。新作ヴェルシス1000の実力は?
カテゴリー初の並列4気筒エンジンを搭載。カワサキがプライドをかけたモンスター
世界のあらゆる道を悠々と、そしてある時は奔放自在に走り通せるビッグオフが今、世界的なムーブメントになっている。あらゆるジャンルで活躍を見せるカワサキが、ビッグオフ・ジャンルを黙って見ているはずがない。大型といえばカワサキという自負があるのだから。
カワサキはこのジャンルへの新型車投入にあたって、慎重かつ大胆に、さまざまな視点から商品コンセプトを詰めていったはずだ。“他とは異なるスタンス=独自性”を何よりも最優先したことは想像に難くない。
ではその独自性とは何か。答えはエンジンだった。ツインではBMWのフラットツインを筆頭にVツインではドゥカティやKTM、スズキ。縦置きクランクVツインのモトグッツィ。ホンダはV4、ヤマハは伝統のパラレルツイン、トライアンフは3気筒を選択した。
つまりこのジャンルに初の直列4気筒エンジン、つまり直4のライバルは存在しない。カワサキはここに焦点をあてた。他のマネはカワサキのプライドが許さないのだ。
ではさっそくカワサキがそのプライドを賭けて作り上げたヴェルシス1000で走り出してみよう。やはり直4ならではの走り出しやすさがまず素直に実感できた。発進時の気難しさが皆無だ。低速から4気筒らしい粘りがあり、スルスルと大きな車体が動き出す。クラッチミートに気をつかわずに発進できるメリットは混雑路でありがたいし、実はロングランでも扱いやすさによる低疲労を約束するものなのだ。
この走り出しやすさは具体的に“粘り・滑らかさ”によるものだが、他のどれよりもクラッチ操作・シフト操作・スロットル操作に気をつかわなくてすむイージースタート・イージー加速が楽しめる。
直4でなければできない粘り強い走り出しの安心感。低速回転域のトルクの安定感。このメリットが誰でも簡単に体感できるのだ。
柏's EYE
欲しい時に欲しいだけのパワーが選べる贅沢
発進のしやすさに続いて、スロットル低開度から軽くスロットルをひねって粘るゾーンからスルスルと前へ加速度をつけて滑り出すゾーンへとシフトするが、やはりさすがに1,000㏄だ。滑らかにそして勢いよく大排気量らしく増速していく。早めのシフトアップを試みても直4らしくちゃんとスロットルについてくる。そしてひとたび高回転にすると、直4ならではの高回転域でのパワーだけではなくマフラーが野太い雄叫びをあげるのだ。
低回転から中速回転域まではラフなスロットル操作をしても後ろから蹴飛ばされるようなダッシュではなく、上質かつ長い時間の加速を堪能させてくれる。早めのシフトアップでゆったりしたやさしい回転ゾーンで楽しむのもいいし、レッドゾーンまでギンギンにスロットルを開けて加速を楽しむのもいい。はやり4気筒らしい吹け上がりのサウンドも魅力だ。欲しい時に欲しいだけのパワーが気軽に選べる。
2気筒ではここまでは回らない。2気筒ではここまで低速の粘りが出ない。まさに2気筒では成しえない4気筒ならではの真骨頂だ。
この“乗りやすさ=イージーアクセス性”は直4だからこそ可能となったし、コーナリングでは深いバンク時において、落ち着きのある挙動が存分に味わえる点も見逃せない。車体直立付近のレスポンスがやや敏感ではあるものの、この手のバイクでもやはりコーナリングの楽しさが制限されない作り込み。まさに直4ならではのバンク自在性だ。
縦置きクランクのトルクリアクションによる左右のロール抵抗の違いはなく、単気筒並みにスリムなVツインでの深いリーンアングル時、ライダーの動きやスロットルのわずかなオンオフによるスロットルの動きに敏感に反応しやすいのだが、直4はこの点でもイージーかつ安心。だから、限界ギリギリまで深いバンクが楽しめる。
世の多くのライダーは直4ロードスポーツで育ち、進化をともにしてきた。まさにマジョリティの選択であった。そして多くの世のライダーは直4エンジンの限りない可能性をまだまだ信じている。ヴェルシス1000はだからどことなく懐かしい乗り味でもあるといえるし、ヴェルシス1000でなければできない直4ならではのスポーツ性がきっちり楽しめる。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
https://kashiwars.com