ヨシムラ
いつの時代も、パフォーマンスを追求してきたカワサキ。そのイズムは常に受け継がれており、2009年モデルでモデルチェンジされたNinja ZX-6Rとて同じこと。では、このマシンに秘められたパフォーマンスとは一体何か。レーシングライダーの西嶋修が斬る。
量産車初の新採用機能を違和感なく車体に融合
一足先にモデルチェンジしたNinja ZX-10Rは見ためどおり尖った走行性能で、とことんまでエキスパート向けの仕上がりだった。そんな姿を見せつけられた後のNinja ZX-6R。見ためはNinja ZX-10Rのフォルムを継承し、新しいカワサキスーパースポーツのイメージを打ち出している。しかし乗り味はNinja ZX-10Rとはまったく別物。先代のNinja ZX-6Rで、ある程度扱いやすくした性格に、拍車をかけたといった第一印象だ。
しかし勘違いしないでほしい。けっしてマイルドとかおとなしいとか、そんなことを言っているわけではない。実に乗り手に忠実な性格だということ。たとえばコーナーで車体を旋回させようと思ったとき、思った以上にフロントが切れ込んだりとか、思うほどフロントがインに入っていかないといった、意に反した動きをすることが少ない。ちょっとだけ曲げたいと思えば、ちょっとだけ曲がるし、もっと深く曲げたいと思えば、そのぶん深く曲がる。ライダーとバイクが一心同体といった印象なのだ。
ライダーのちょっとした操作にもリニアに反応
カワサキというと乗り味が尖っていて、それを扱い切ることにステータスを見出していた時代もあった。冒頭でも述べたが、Ninja ZX-10Rがその姿勢で挑んでいる。そのイメージからすると、このNinja ZX-6Rに対してはカワサキらしくないと感じる人もいるかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。ライダーの意思に忠実で扱いやすい性能ということは、言いかえればそれだけ過激に扱えるということ。“あぁ、バイクはこんなに過激に攻めることができるんだ”と、多くの人に感じてもらえるはず。しかも安心感と同時に。それがこのNinja ZX-6Rだ。
ライダーのちょっとした操作にもリニアに反応する性格は、車体バランスのよさがあっての話。このNinja ZX-6Rの車体は、歴代カワサキモデルのなかでも、間違いなく一番バランスがとれている。バランスというと、前後のバランスとか剛性感などのことと思われがちだが、このNinja ZX-6Rはそれだけではない。車体性能をうまく引き出すためのエンジン特性だったり、エンジン特性をうまく使うための足まわりだったりといったように、車両全体のパッケージングが高次元でまとまっているのだ。
このパッケージングのまとまりのよさをもっとも体感できるのがコーナリングだ。現在のスーパースポーツモデルは、フロントタイヤが路面と接する面に圧力をかけてコーナーを曲がっていく乗り方が一般的。このNinja ZX-6Rも例外ではなく、フロント荷重でコーナーを抜けていく。そのとき、路面と接するタイヤの面圧がもっと欲しいなと思えば、その分だけ面圧を増すことができる。逆に、面圧を抜こうと思えば、思った分だけ抜くことだって可能。フロント荷重をリニアにコントロールできるというわけだ。これにより、速度域やコーナーの大小によらず、スムーズなコーナリングを可能としている。
また、荷重のコントロールの判断も、フロントの接地感がシッカリとライダーに伝わっているからできる技。しかも、フロント荷重を弱めようが強めようが、リヤの接地感は薄れることなく残っている。このリヤの接地感のよさは先代ゆずりで、新型Ninja ZX-6Rはそれにプラスして、フロントからのインフォメーションが伝わりやすくなっているといっていい。
ついついやる気を起こさせるライダー本位の走行性能
この進化は、新しく採用されたビッグピストンフロントフォーク(以下、BPF)の恩恵が大きい。BPFは低速域でも荷重に対してリニアに反応し、車体姿勢を安定させてくれるすぐれもの。ただし、一点豪華主義で、この接地感のよさはうまれない。Ninja ZX-6Rは車体もBPFの性能を引き出せる設計となっているのだ。マスの集中化と重心位置の調整により、フルブレーキング時でもライダーの荷重がしっかりと車体に残りつつも、フロントフォークに荷重がかかるような設計になっているのである。だからブレーキング時も車体は安定しているし、フロントの接地感もつかみやすい。
しばらく、スタンダードのセッティングを楽しんだ後、前後サスペンションの減衰とプリロードを調整してみた。今回インプレッションしたのはオートポリス。まったくの街乗り仕様でコーナーを攻めると、ややピッチングモーションを感じたので、減衰・プリロードともにやや強めに設定し直した。すると初期のスムーズなストロークはそのままに、ピッチングモーションは見事に解消された。このサスペンションの調整幅は広い。街乗りからサーキット走行までカバーできるのはもちろん、ライディングテクニックの上達に合わせて調整していけば、いつまでも自分の腕相応の車体にしておくことだって可能だ。