ヨシムラ
プラス37ccの余裕は市街地走行でも体感
車体を起こすと、マシンの中央に重量物が集中していることが感じられる。エンジンを始動させると、並列4気筒らしい連続したエキゾーストノートを響かせる。エンジンレスポンスはするどいが、神経質な感じはしない。クラッチミートするとスムーズに走り始める。低回転域のトルク不足も感じない。実はこのエンジン、排気量は636cc。一般的な600ccスーパースポーツの599ccよりも排気量が大きいのは、トルクを増やしてストリートでの扱いやすさを向上させるため。レース用のZX-6Rとは異なる設定なのだ。わずか37ccと言うなかれ。車体を前に進める力が強いことは市街地走行でも体感できる。並列4気筒エンジンは振動も少なくなめらかそのもの。混み合った道路もストレスなくスムーズに走り抜けることができた。
気になるライディングポジションだが、前傾度が強めのわりに疲れにくい印象。その理由は着座位置とハンドルの距離が近いので腕に余裕があるのと、上体に自由度があることなどが考えられる。市街地でクルマの流れに乗って走るときや、交差点を曲がるときなども自然な感じ。スタート直後で、僕が前傾ポジション好きということもあって、まったく気にならない。
限界値が高いスーパースポーツは高速道路でのパフォーマンスも一級
そのまま高速道路に乗る。ここで威力を発揮するのはパワフルでなめらかな並列4気筒エンジンだ。スロットル開度に応じてパワーが的確にデリバリーされるので、追い越しなども余裕だ。また、車体の作りのよさも実感できる。シッカリしたフレームに装着された前後サスペンションがいい仕事をする。
フロントのショーワ製倒立サスペンションは大径のダンピングピストンを使うなどの最新技術を採用し、スムーズでしなやかなストローク特性を発揮する。リンク式のリヤショックはスプリングレートやレバー比の変更により、ストリート向けのセッティングになっている。そのため路面の凹凸からくる細かい衝撃から、轍などの大きなギャップを通過するときのショックまで瞬時に吸収するので、安定した走行が可能となるのだ。実に質が高い乗り心地だという印象だ。そのためシートのクッションは薄めだが腰を突き上げるような衝撃もないので、長時間のライディング時には疲労を軽減するのにも役立っている。
やはり限界値が高いスーパースポーツは高速道路でのパフォーマンスも一級で、精神的にゆとりを持って走ることができることを実感した。
ミドルスーパースポーツが持つ旅力は想像以上
中央自動車道から長野道へ入り、松本インターチェンジを目指す。Ninja ZX-6Rはフルカウルだが、スクリーンは低め。風圧を防ごうとするとかなり伏せる必要があるが、自然体で走っていても風がヘルメットに沿って後方へ抜けていくので、さほど気にはならない。
高速道路を降りると一般道路をしばらく走り、いよいよ待望のワインディングに向かう。ミドルスーパースポーツにとって最高のステージと言って差し支えないだろう。ここまでの走りで高い運動性を持つことを理解しているので、ライダーとしても気持ちが盛り上がってくる。
際立つ上質なブレーキフィーリングと前後サスペンションの動きのよさ
コーナーにアプローチするときに感じたのはブレーキ精度の高さ。タッチはもちろんいいのだが、にぎり込んでいくときのコントロール性が最高にいい。φ310mmのフローティングローターをモノブロックキャリパーで挟み込むのだが、ラジアルポンプマスターシリンダーでのコントロール性が抜群にいいのだ。一般的なマシンが10段階くらいのコントロール幅だとするとその倍、20段階以上の幅がある感覚。そのため指一本で軽くフロントフォークを縮めてフロントタイヤの荷重を増やしながらコーナーに進入したり、コーナーのRに合わせてフロントフォークの沈み込みを加減しつつ減速したりすることが容易にできる。上質でとても気持ちがいいブレーキフィーリングだ。そして初めて走る道で少しコーナーの奥が回り込んでいることに気付いたとき“あとほんの少し”の追加ブレーキングが不安なくできることにも感動した。
そして前後サスペンションの動きのよさはここでも威力を発揮する。ライダーにタイヤの接地感がリアルに伝わってくるので、一定のバンク角までの寝かし込みやコーナーリング中の姿勢制御、出口に向かって加速するタイミングを図ることなどがやりやすい。セパレートハンドルによる前傾姿勢もバイクとの一体感が得やすく、精神的にも余裕ができる。
ライディングポジション
ミラー後方視認性
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横田 和彦
1968年6月生まれ。16歳で原付免許を取得。その後中型、限定解除へと進み50ccからリッターバイクまで数多く乗り継ぐ。現在もプライベートで街乗りやツーリングのほか、サーキット走行、草レース参戦を楽しんでいる。