ヨシムラ
[ワインディング編]性能を手の内に収めている感覚
今回のインプレッションでは、基本的にワインディングロードをつないでいくルートをたどった。その中で、比較的ハイペースで走ることができる道から、1.5車線ほどの狭い道まで、いろいろなパターンのワインディングを走行し、より幅広くNinja ZX-10Rの走りを体感することができた。
さまざまなワインディングを走って感じたことを、端的に言うと、ズバリ「低速域でも楽しい!」である。特にこの2016年モデルは、サーキットでの速さを最優先して開発されている。すなわち速く走ることはおろか、レースに勝つことを命題として開発・設計されているということだ。それゆえ、道幅が狭く、タイトなコーナーが連続するような峠道では、そのポテンシャルを引き出せずに、あまり楽しめないだろうと予想していた。しかし、蓋を開けてみるとどうだろう。長野県の志賀高原あたりでつづら折れの峠道を走ったのだが、ついつい顔がほころんでしまった。まるで250ccクラスのバイクのごとくキビキビ走れ、ライディングに夢中になってしまったのだ。センターラインもないような狭い道を、まさか1,000cc・173psのバイクで楽しく走れるとは、思ってもみなかった。
それほどまでに楽しめた理由を、「ココがこうだから!」と断定できる自信はない。しかし、自分が走る中で感じたのは、車体のコントロールを非常にしやすいということだ。まず、市街地ではツラく感じた姿勢だが、積極的に身体を使って車体を操縦するうえでは最高にシックリくる。また、エンジンはどの回転数からでも欲しい分だけパワーを提供してくれるし、ハンドリングも乗り手の意志とかい離することがない。走行シーン、そして自分自身のスキルから考えると、Ninja ZX-10Rにとってはその性能を大いにあり余している状態なのに、あたかもそれをライダーが手中に収めて巧みに操っているかのような動きを見せてくれるのだ。
そして筆者は一個人として、ブレーキングによる車体制御のしやすさに感心させられた。ブラインドコーナーで曲率を読み違い、想定している走行ラインを外してしまった際も、ブレーキの入力加減で難なくリカバーできたのだ。入力に対する反応の正確さと精緻さは、旋回時の安心感を高めてくれ、コーナリングをより楽しむことができた。もちろん、ブレーキパーツ自体が優秀なこともあるだろうが、ブレーキ系統のみがすぐれていても、このような挙動は実現しえないだろう。車体を構成する要素すべてが高機能で、かつそれらが高次元でシンクロしているからこそ生まれたものであることは、間違いないはずである。
低い次元においても、しっかりとファンライディングを与えてくれる10R。その間口の広いスポーツ性には、ただただ驚かされたのであった。
車両紹介・Ninja ZX-10R
公道版SBKマシンを目指して誕生
昨年発表され、今年初めよりデリバリーが始まった2016年モデルのNinja ZX-10R(以下、10R)。最新型10Rでは、サーキットでの戦闘力向上が重点的に図られ、車体のあらゆる部分が前モデルから刷新されている。もっとも目を引くのは、やはり足まわりだろう。カワサキとショーワが共同開発したバランスフリーフロントフォークに加え、ブレンボ製M50ブレーキキャリパーなど、レーシングマシンにも匹敵するほどの装備を採用しているのだ。さらに慣性計測装置(IMU)をはじめとする最新電子デバイスも多数投入され、まさにスキのない1台に仕上げられている。スーパースポーツマシンとしての資質に磨きがかけられた新生10Rは、公道でどのような走りを見せてくれるのだろうか。