ヨシムラ
官能的なエンジンフィールを理解した作り込み
ストリートとワインディングが実に楽しい。クイックという意味ではZX-10Rにおよばないが、クイックに走ることを積極的にやってみようと思わせる力がこのバイクはとても強い。しかも低速から中速コーナーの連続ではとりわけその魅力が光る。グイグイ曲がるだけでなく、前輪と後輪がしっかりと路面をとらえていることが実感できる。つまり、何となく速いのではなく、さまざまな操作を肌で感じながら速く走れてしまうのだ。
とくにフロントブレーキの効きとタッチも絶妙である。テレスコピック式フロントフォークとはこのためにあるんだと思わせるぐらいに適度にノーズダイブして高い旋回性につなげていく。そう、バイクを操る基本をしっかりと身に付けさせてくれるのだ。それでいて刺激がそこかしこに隠されている。
たとえばこの操安性にしても、保舵力そのものは極めて少ない方がいい。コジらない。そんな乗り方が要求される。だが、万が一コジッて乗った場合でも剛性バランスに優れた車体と足まわりによって、どのようにでも適応してくれる懐の広さを持つ。ビギナーに優しく、エキスパートに深い味わいを提供してくれる作りと言っていい。どちらか一方だけを満足させるような薄っぺらなものではないのである。
こうした絶妙の操舵系を支えているのが実はエンジン位置とポジションである。最新バイクの理論にのっとった優れた重心・アライメント設定であり、これをサポートできるように設定されたライディングポジションがZ1000の走りを大きく支えている。
しかもこれまでにないタンク造形を持っていることも見逃せない。実はこれ、前後左右に大きくアクションするときにも邪魔にならない絶妙の形状でもあるのだ。とくにクイックにコーナリングへ持ち込んだり、一気にフルバンクUターンを決めるときにも抜群のコントロール性を引き出してくれる。
スタイルと操安性でストリートファイターとしての資質を存分に引き出せるだけではない。エンジンの特性もなるほどと感心する。スロットル開度に合わせ忠実にパワーがほとばしり出てくるのだ。パワーがありすぎるでもなく、不足しているのでもなく、欲しいだけのパワーがリニアに増幅されていく。ZX-9R系で磨いてきた気持ちよさをエンジニアは十分理解している。いや、むしろこの持ち味を誇りに思っているのではないかと思うほどだ。
しかもZ1000は高回転になるほど耳に心地よいサウンドが届き、体がのけぞるように加速を強める。過剰でも過小でもない車体と操安性とパワーのバランス。カワサキがデザインの変革をやったことはそのまま走りの変革を成し遂げたことと同義である。日本固有の美意識をきちんと形にして開発システムまで変革させたZ1000は、これからのカワサキの大きな原動力のひとつになるはずだ。
>>> 次ページ 名車「Z」の新境地を切り開く新時代のスーパーネイキッド
柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
https://kashiwars.com