ヨシムラ
奇をてらうデザインではなく、普遍性のあるデザインと走り。カワサキの情熱が新しい価値創造をやり遂げた。Z1000は単なるストリートファイターではないのだ。
異彩を放つ個性的デザインが生まれた背景
変革するカワサキの中でとりわけ異彩を放つモデルがZ1000である。2003年カワサキラインナップの中だけではなく、世界のおびただしい数のビッグネイキッドの中でも存在感を強烈にアピールした。
カワサキにとってこのバイクの存在理由はデザインだけでなく、モノ作りのシステムを再構築する貴重なバイクとなった。つまり、エンジニアの中でのデザイナーの位置づけを変えたバイクなのである。
本来、バイクは絵心を持ったスタッフが開発をスタートさせるべきである。エンジンが先にあったり、車体が先にあったり、ましてマーケティングが先にあるのではない。作りたいものを作って企業として成り立つ。これをまっとうすることが本来のモノ作りであった。だが、マジョリティを追わなければ大企業は生存していけない。だから、売れているバイクに似たものをとりあえず作る。とりあえずを繰り返すとモチベーションは下がる。それではいつか頭打ちになる。プライドがあってこそ仕事であることを誰もが知っているはずなのに、やれない環境になりやすい。
だから、本当にやりたいものを作って企業として成り立つシステムに変えていく。青臭い論理のようだが、結局はその方向に行かなければバイク業界の未来も厳しいことになる。これを知って行動したのが「Z1000プロジェクト」だったと言っても過言ではないだろう。
つまり、デザイナーが作りたいモノを作る。それをベースにエンジンや車体設計が技術を駆使して形にしていく。もちろんそこには終始して商品企画が絡むのだが、いずれも役割に上下はない。上下はないが、デザイナーは商品企画者でありながら、エンジンや車体を理解する必要もある。ただし、それぞれの都合や気持ちをわかりすぎてもよくない。デザイナーはイメージしたスタイルと走りを具現化するためのリーダーでなければならないのだ。
そうすることは当然のようにエンジンや車体を作るエンジニアたちからの反発を食らうだろう。だが、喧嘩しないでよいモノなど作れない。仕事とは何なのかを知ることで、はじめて冷静にしかも熱くモノが作れるのではないか。Z1000のプロジェクトはそんなことを感じながら進んだはずだ。
さて、そんな新しいカワサキの変革から生まれたバイクである。楽しくないはずがない。まずは外観。今さら4本マフラー? というスタンスを持つのは早合点過ぎる。ステンレスのエキパイからマフラー4本の処理をここまで独自性を出せたモノはなかった。ありそうでなかったことをやり遂げたのである。しかもこれはデザインのための4本だけではなく、深いバンク角を確保するために容積分散させるための手法となった。欲しい出力特性と十分なバンク角。しかも独自のデザインセンスでまとめ上げる。つまり、デザイナーはデザインだけでなく走りの本質も理解してこの4本マフラーに行き着いているのだ。
4本マフラーは当然、4気筒エンジンを意味する。4気筒というと日本製であり、“誰が乗ってもパワフルで乗りやすくて速くて壊れずに乗れるし、コーナーも簡単に曲がれてしまう”そんなイメージが強い。強いことを否定せずにダイレクトにこの魅力に磨きを掛けようとした。その結果がこのハンドリングだ。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
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