ヨシムラ
底知れぬ強大トルク、怒濤のダッシュ力に感動
さて、この巨体のアメリカンを走らせるとどうなのか。実はここにもカワサキのこだわりを感じ取ることができる。1速全開で60km/h、2速で約100km/hに達するだけでなく、その速度域に達するまでのなんと速いこと! まさに怒濤の加速力が十分に味わえるのだ。アメリカンはゆったりのんびりという筋書きもいいけれど、ちゃんと開けてダッシュ力を楽しむのはそれはそれで大切。エネルギーの大きさを知って走るゆとりこそが本当の大らかさにつながる。大海原を小さな船で行くことと大きな船で行くことの違いといえばいいか。そして十分にダッシュ力が楽しめるのだから、楽しさは十分以上に広がる。
しかも、このVN2000の操縦性がまたまた率直。この大きく重い車体をものともしないハンドリングが楽しめるのである。バンク角はもちろんアメリカンだから少ないのだが、ステップなどが接地するまでの自然な操舵フィールはなかなかのもの。変な切れ込みがないのである。しかもバンク角が不足する状態になっても、何かにひっかかってバランスをくずし、危険になることもない。
ただし、アメリカンでワインディングを速く走るという邪道を本気でやるのならば、大柄なポジションをものともしない大きなアクションが必要になる。上体を右へ左へ大きく動かすといった動作である。これをきっちりとやることでバンク角のハンデを大きくカバーすることができるのだ。
下手なスポーツバイクに負けないパフォーマンスがこのようにして味わえるのだが、ゆったりと走るときのエンジンの鼓動はやはり健在だ。シリンダー1つあたり1,000ccもあるというのに洗練された回り方をして、アイドリングから発進までアクが強すぎずにスムーズにやってのけるエンジンは、クルージングに入ると、きちんと鼓動が楽しめる作りになっている。バランスを取らなければならないときには、ビッグツインの鼓動が邪魔することなく、直線路をゆったりと走るときには鼓動を堪能できるという絶妙のあんばいなのだ。
しっかり加速し、曲がるということは当然のようにブレーキもしっかりしていなければならない。実際にブレーキも前後がしっかりと効いてくれるだけでなく、フロントはロックに持ち込めるほどコントロール性が優れているといえる。楽しむことができる作りということはこのあたりからも察することができるのだ。
もしもこのバイクでタンデムを楽しむのであればオプションのシートとシシーバー(バックレスト)をオススメしたい。ゆったりのつもりでもついつい凄い加速力になって、パッセンジャーが疲れてしまうからだ。
さて、アメリカンというジャンルの未来はどうなるのだろうか。アメリカン、それは一般的に欧米ではクルーザーというジャンルになるわけだが、古典的スタイルの踏襲が基本になっている。変わらないからこそ付き合っていけるジャンルでもある。だから、今後のカワサキは変わらない中での変革がテーマとなるだろう。それはディテールか質感によるものか。あるいはその両方か。だが、この枠から唯一脱皮することができるのもカワサキなのかもしれない。もちろんそれはアメリカンだけではない。革新はいつの時代もカワサキから、なのである。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
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