ヨシムラ
スーパースポーツからスクーターまで、多くのモデルに普及した燃料供給システム“フューエルインジェクション”。そのシステムを世界で初めて市販車に導入したのはカワサキだった
現在では、排ガス規制への対応や環境性能の向上などさまざまな目的から、吸気系にキャブレターではなくフューエルインジェクションを導入するモデルがほぼ一般的になっている。そもそもフューエルインジェクションとはどういったものなのか? 簡単に説明すると、燃料をコンピュータで管理しながらエンジンに供給するシステムのことだ。スロットル開度やエンジン回転数など数種類のデータをコンピュータが解析して燃料を調整するので、キャブレター車に比べ出力を得やすく、かつ燃費も向上するなど、さまざまな利点がある。
そして、そんな便利なものを他社に先駆け、市販車で最初に導入したのがカワサキだった。80年、カワサキはZ1000MkⅡをベースに、KEFI(カワサキ・エレクトリック・フューエル・インジェクション)を装着したZ1000Hを発売する。当然のことながら現在に比べて、コンピュータをはじめとするさまざまな分野での技術力が発展途上だったため、その性能には限界があった。ちなみにこのとき採用されたシステムは、4輪車系ボッシュLジェトロニックを2輪用にしたもので、エンジンへの空気の通過量を計り、それに見合った最適な比率のガソリンを噴射するものだった。このシステムだと、スピードが出ないと空気の通過量が増えないため、スロットルレスポンスは決していいとはいえなかった。
d.f.i
その後、各種センサーからの情報を8ビットのマイコンで処理するd.f.iを導入することとなる。結果、スロットルのレスポンスは格段に向上し、同時期のキャブレター仕様車をはるかに上回る性能を発揮したということだ。しかし、作動させるのに多量の電気を消耗するため、始動性にムラがあったり、アフターマーケットのマフラーに交換すると吸入量が追いつかなくなることがあったりと、さまざまな問題も生じた。そんなこともあり、84年発売の750ターボを最後に、フューエルインジェクションは99年まで採用されなくなってしまったのだ。
結果的には一時採用が見送られることになったカワサキのFIだが、市販車に最初に導入したという事実は、バイクの技術進歩史上大きな一歩として記憶されることに違いない。
1983 GPz1100
1984 750TURBO
1999 VULCAN1500 DRIFTER
2000 ZX-12R
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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