ヨシムラ
スターターの動きが重くエンジンのかかりが悪い。一般的にはバッテリーの放電や充電不足、寿命などを疑う場面だが、電装系がしっかり機能しているからこそ、そのような状態になることもある。未然に防げるバッテリートラブルの話
毎日ガンガン乗る人はとくに注意されたし
点火方式にフルトランジスタやイグナイターを採用している車両、つまりバッテリー点火車においては、バッテリーの充電状況が性能に大きく影響する。たとえば何となく始動時のセルモーターが弱々しい、充電してエンジンはかかったけれどアイドリングが安定しないなどの場合、バッテリーを新品に交換するだけでそれらのトラブルはあっさり解決することが多い。これは点火系に流れる電気エネルギーは常にバッテリーから供給されるからで、ジェネレーター(オルタネーター)がキチンと機能していても、作り出された電気エネルギーの受け皿となっているバッテリーのコンディションが正常でなければ、エネルギーに対するフォローが追いつかないことを表している。ちなみに過去に乗っていたことのある他社のバイクでは、バッテリーのコンディションが悪ければ、発電系がどんなに高機能でも走行後30分もしないうちにエンジン停止という経験が多々あった。一方、カワサキ車ではそこまでひどい状況にはならなかった。それだけカワサキ車の電装系統は、悪条件に強くタフであることを意味している。
かつてGPZ900Rを愛車としていたころ、私はほぼ毎日のように乗っていた。平日は通勤に休日はロングツーリングと、月当たり3000kmは少ないほうだった。したがって充電状況はかなりいいと思っていたので、バッテリーの液量チェックはさぼり気味であったと告白しよう。そんなある日、いつものようにエンジンをかけようと試みたところ、バッテリー上がりと同じような症状を見せた。セルモーターがスムーズに動かない。毎日のように乗っているのに何故? そんな風に思いつつ、比重をチェックしてみようとバッテリーを覗き込むと…、なんと極板が半分くらい露出しているではないか。当然のことながら、この状態だとバッテリーは性能を発揮することが出来ない。応急処置として水道水を補給。規定レベルまで液量を上げ少し充電すると、エンジンをかけることはできた。だが方法としてはあくまでも緊急対策なので、その日のうちに新品バッテリーへと交換したのはいうまでもないところ。今にして思えばなんとも間抜けな話で、またそのときにクルマなどからジャンピングして無理やりエンジンをかけなくてよかった。電気エネルギーの受け皿となっているバッテリーの液量が少ないところでその方法をとれば他の電装系部品にもダメージが及んでしまうからだ。
なぜバッテリーの液量不足になってしまったのか? 理由の一つに充電性能のよすぎることが挙げられる。GPZ900Rの場合、2000rpm以上では14V台で電圧制御されている。アイドリング付近では12V台となっている。当時、アイドリング時間が極端に短く、高回転領域を多用する乗り方をしていたからなのだろうが、供出量より供給量が上回り気味だったため、バッテリー液の蒸発が進んだと考えられる。逆にいえば、比較的に低速運転が多くなっても、バッテリーは簡単に充電不足にはならないということになる。
たかがバッテリー、されどバッテリーなわけで、バッテリー点火車では、ガス欠はもちろんだが、充電系の機能が良好でも、バッテリーコンディションがNGならば走行不能に陥ることがあるのだ。液量はマメにチェックされたし。
意外に丈夫なカワサキの電装系パーツたち
本文で述べたようなバッテリー液量不足による充電制御系異常が起こった場合、レギュレーター、イグナイターの順に壊れることが多い。事実、私の経験してきた他社製バイクの数機種はその要因でレギュレーターが焼損、運が悪ければ車両火災をおこしていたかもしれない場面があった。だが、過去に乗ってきたGPZ900Rやゼファーでは、そこまでひどい状況になったことが一度もない。バッテリーは蓄電池であり、電気エネルギーの緩衝役も有していると考える。カワサキ車の場合は、電装系部品がタフ、つまり電気エネルギーの緩衝性も高いと思える。経験に基づく考察ではあるが…。
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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