ヨシムラ
キャブレターの不調はエンジンの寿命に大きく関わる。にわかには信じがたい話かもしれないが、燃調がリッチな状態やオーバーフローしたままの状態は、ボディブローのごとくエンジンにダメージを蓄積させる。コンマ数ミリの見逃しでエンジンを壊さないように!
燃料漏れを放置してエンジン破壊は笑えない
00年以降、急速に進んだバイクのフューエルインジェクション(以下、FI)化。ローエミッション&ハイパフォーマンスを追及する上で必要不可欠とされる燃料供給メカニズムである。しかし、その原理的な構造であり、以前の主役であったキャブレターも、いまだに人気の高い吸気系メカニズムである。
新車のうちはFIとそん色のないローエミッション性を出すことも可能だといわれるキャブレター。だが、使用経過において稼動部は磨耗や劣化を起こし、本来の機能をはたせなくなる。その一つに燃料のオーバーフローがある。
オーバーフローは読んで字のごとし、フロートおよびフロートバルブで自動調整しているフロートチャンバーの設定油面を超えた燃料があふれ出す状態。外部にドボドボとあふれ出すのであればすぐに気付いて対策もできよう。だが、シリンダー内に漏れ出す燃料は困りものである。なぜなら、オーバーフローした燃料がウォーターハンマー現象を起こし、最悪の場合はコンロッドを破壊してしまうからだ。
かつて私はZZR1100にて、内的オーバーフローを経験したことがある。一度走り出してしまえば調子のよい車両であったが、1週間ほど乗らないでいると始動性がすこぶる悪い。セルモーターがクランクシャフトを回せない感じで、私はまっ先にバッテリーの弱りを疑った。だが、充電量・比重ともに問題なし。ならば電気系のトラブルなのでは?と思うわけだが、ショップに修理を依頼したところ、フロートバルブシートのOリングの収まりが悪く、わずかな隙間から燃料が漏れ出し内的オーバーフロー状態に。結果、ウォーターハンマー現象になりかけていたので、クランクシャフトを回しきれなかったと解明された。
オーバーフローを防ぐためには、分解清掃および油面調整をする方法がある。だが、何回分解清掃してもオーバーフローが止まらないという場合は、キャブレター内部のゴム系パーツをすべて新品交換するしかない。もちろん、これにはフロートバブルも含まれる。またオーバーホールする際は、フロートバルブシート部など、燃料の通路が正しい状態になっているかをよく確認する。先の逸話で述べたとおり、コンマ数ミリの隙間があっただけで(収まりが悪い状態)、燃料はしみ出すようにオーバーフローするからだ。仮にウォーターハンマー現象にならずとも、クランクケース内に落ち込んだ燃料が増えることで適正オイルレベルがたもてず、加えてオイルの性能をいちじるしく低下させることになる。
キャブレターの分解整備は比較的簡単にできる。だが、その内部構造には、1000分の1mm単位の精度が用いられていることを忘れてはならない。新品パーツをおしみなく投入し、漏れを防ぐべし。
諸悪の根源を元から絶つ
入念に分解清掃、内部パーツもすべて新品に交換した。それでもオーバーフローが止まらない。そんなケースは実際に少なくない。このときに疑うべきはキャブレター以前の燃料経路。燃料コックの不具合や燃料タンク内の微小なサビによるゴミが悪さをしていることがある。燃料コックに装着されているメッシュフィルターはかなりのろ過効果を見せるが、それをも通過する微小なゴミが実在する。それらがフロートバルブの先端に固着すると、オーバーフローは止まらない。清掃で取り去った後、しばらくしてまたオーバーフローするようなら、燃料タンク内に微小なゴミがたくさんあると疑うべきだ。こうなっているときの対策は、燃料タンクおよびコックを新品交換するしかない
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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