ヨシムラ
バイク乗りなら、愛車には末永く好調であってほしいと思うはず。そこで、いちバイク乗りの扱い方を例に、「バイクを保たせる」ための術を、毎回一例ずつ紹介していく。
無稼動スパンが長いほど効果絶大な始動術
エンジンの構造上、自然なオイル潤滑は不可能であり、熱的にもっとも厳しい状況に置かれているのがシリンダーヘッドである。そのため、エンジンオイルはオイルポンプによって強制圧送されている場合がほとんどで、その圧送量および油圧、流速はオリフィスやオイルジェットでコントロールされている。
よってエンジンの稼動中または一般的な走行状態では、オイル潤滑不足に悩まされることはないだろう。だが、それはエンジンがかかってからの話。始動前は、前回エンジンを止めたときのオイルだまりと潤滑保護性能に期待するしかない。日常的に稼動させているバイクの場合は、摺動部の隙間に入り込んだオイル残りによって保護されるのだが、長期無稼動状態の場合はほとんど流れ落ちていることもある。
また、日々運転しているバイクであっても油断はできない。それはサイドスタンド/センタースタンド駐車問わず、比較的高い位置にありながら構造的にオイル溜まりを設けにくいカムシャフト部だ。冷間始動(一般的にエンジンが外気温と同じか、それより冷えている状態でエンジンを始動すること)時には厳しい状況下にあるといえるだろう。
カムシャフト部のオイル潤滑不良による磨耗は、カムシャフト面のかじりとして表れる。このカムシャフトのかじりでよく知られているのが、GPZ900Rに端を発する水冷GPZ系エンジンである。しかし、それは必ずしも起こるものではない。事実、私が過去に乗ってきた計13機の水冷GPZ系エンジン、うち8台のGPZ900/750Rでは一度も経験したことがない。各車の運用距離では約1万〜3万7,000kmとなるが、ヘッドカバーを開けて確認すると実にキレイなコンディションを確保していた。GPZ900R/750Rのカムシャフトはかじりやすいといわれるが、私は、乗り手の運転方法が大きく影響しているのでは?と考える。
私が実践している冷間始動方法は次のとおりである。ライダーはいつでも走行可能な準備をし、車両にまたがり車体を垂直に起こした状態でチョークレバーを引き、スターターボタンを押す。エンジン始動後はチョークレバーで回転数を1,500rpmに合わせる。約5〜10秒でチョークレバーを戻し、スロットルグリップの回し方で、これまた1,500rpmに調速する。その5秒後に微小なスロットル操作をし、エンジンのピックアップが“着いてくる”ことを確認できたらすぐに発進。水温計の針が動き出すまで1,500rpmに調速しつつギヤを駆使して巡航する。つまり暖機運転と称した無負荷状態を極力短時間とし、またバイクを立ててから始動させることによってカムシャフトの潤滑状況を良好にしているのだ。
この方法を他のバイク乗りに話すと、大抵驚かれる。「なぜ暖機運転をしないのか?」と。だが私は冷間始動方法、いうなれば暖機運転方法が原因で発生するトラブルや、エンジンパーツ破壊を経験したことがない。個人的なリサーチでは、サイドスタンド使用時の無負荷暖機運転でカムシャフトをかじらせてしまった人の方が多い。私の車体を立ててエンジンをかけ、走りながら暖機運転する方法は、経験則から得たものであるが、意外にいいのかもしれない。
エンジンの無負荷状態とは?
エンジンと後輪の駆動力が断絶している状態。簡単にいえばギヤがニュートラルに入っているときを指す。実用状況下ではアイドリング状態がまさにそのときだといえ、発生油圧は60〜80kPa(1,000rpm、油温80℃)くらいが一般的な数値。負荷状態=エンジン回転数が高まっているときの油圧は、200〜350kPa(3,000rpm〜4,000rpm、油温90℃)くらいとなるエンジンが多い。
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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