川崎重工業の水素戦略

カワサキは水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。

[第8回(最終回)]水素エンジンに向けて研究中の二輪用直噴エンジン カワサキは公開した水素エンジン車のイメージ画像

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ヨシムラ

カワサキは長年、水素に関する技術を磨いてきた。現在は、水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。最終回となる第8回目は、二輪用水素エンジンに向けたカワサキの研究を紹介する。

新会社設立と同時に発表された研究中のエンジン

カワサキイチバンの連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、水素を活用したカワサキの技術開発に関して、二輪に限らず多分野について解説してきた。最終回となる今回、カワサキのバイクを紹介するカワサキイチバンとしては、やはり二輪用水素エンジンに関するカワサキの技術開発について触れておこう。

今年10月から川崎重工業グループから二輪事業が分社化し、カワサキモータースとして二輪事業に関する新会社が発足した。そのカワサキモータースの事業方針説明会が、10月6日(水)に行なわれ、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが発表された。その会場に、水素エンジンに向けて研究中のエンジンが展示されたのだ。

ニンジャH2シリーズの燃料噴射系を変更

水素を燃料とした自動車は大別して2種類が挙げられる。一つは燃料電池車(FCV)でもう一つが水素エンジン車だ。二輪四輪ともにFCVは市販、またはナンバー取得のうえ公道走行を実施した実績はあるが、水素エンジンに関してはFCVほど開発が進んでおらず、二輪においては市販された実績はない。カワサキが展示したエンジンは、後者の水素エンジンに向けて研究中の二輪用エンジンなのだ。

展示されたエンジンはニンジャH2シリーズのエンジンをベースとして、燃料噴射システムに手が加えられていた。現在のところ、水素で実動させているわけではないが、今後、このエンジン形式をベースに水素エンジンを開発していく計画だ。

燃焼室に燃料を直接噴射する直噴エンジン

既存のエンジンと水素研究に向けたエンジンの大きな違いは、燃料噴射システムだ。ベースとなっているニンジャH2シリーズのエンジンが、スロットルボディとサージタンクにインジェクターが設けられているのに対して、展示されていたエンジンは、これら2パターンのインジェクターにプラスして、燃焼室に直接燃料を噴射させるための直噴インジェクターが設置されている。すなわち、現段階では3パターンのインジェクターが採用されていることになる。

これにより想像できるのが水素とガソリンの混焼だ。その場合、3パターンのインジェクターを装備するのか、また、どのインジェクターから水素、どのインジェクターからガソリンが噴射されるのかなど、さまざまな妄想が膨らむ。ただ、カワサキの事業方針説明会で公開されたCGでは、直噴インジェクターから水素が噴射されているため、おそらくこのインジェクターから水素が噴射されるのではないだろうか。

水素エンジン、BEV、HEVを実用化するための課題

『川崎重工業の水素戦略』で解説してきた通り、カワサキはカーボンニュートラル実現に向け、多分野において水素に関する技術開発を行なっている。また、水素に関する技術開発だけでなく、EVに関しても積極的だ。次世代エンジンとして、さまざまな選択肢を持っているカワサキの今後は、非常に楽しみである。ただ、その技術を商用化するには、クリアしなければならない課題も多い。その課題についてカワサキは次のように語っている。

「EVや水素エンジン車を普及させていくには、モーターサイクル&エンジンのビジネスを電動化にシフトするという当社の技術的な対応だけでは不十分な点もあります。業界団体や政府、自治体と連携しながら、カーボンニュートラルな燃料の供給や廃棄などのエネルギー政策も含めて、すべてのプロセスでCO2が削減できることが重要と考えています。その中で当社としては、グローバルビジネスを行なうため、各国、地域の特性、社会情勢、市場状況、電力事情、規制動向などに応じた使い分けなど、最適な判断が行なえるよう多角的な技術開発を行なっています」

脱炭素社会は目前に迫っている。その時、重工業であるカワサキがどのような製品を展開しているのか、非常に楽しみだ。

取材協力カワサキモータース株式会社
URLhttps://www.kawasaki-cp.khi.co.jp



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