ヨシムラ
現在、量産車唯一のスーパーチャージャー搭載シリーズとして、バイク界に君臨するニンジャH2系モデルたち。その速さを生み出すのは、他ならぬスーパーチャージドエンジン。その魅力に迫る。
比類なき走りを実現した専用設計過給機エンジン
ニンジャH2シリーズの最強バージョンであるニンジャH2Rは、クローズドコース専用ではあるが、20年モデルは驚異の310㎰を発揮。公道走行可能な最強モデルのニンジャH2カーボンでも231㎰の最高出力を誇る。これは現在量産されている市販バイクで最高出力だ。
ニンジャH2シリーズのパワーの源はスーパーチャージャー。スーパーチャージャーは過給機の一種であり、過給機とは簡単にいえばシリンダーに強制的に空気を送り込むことで、排気量以上のパワーを出すためのメカニズムである。
スーパーチャージャーはエンジンなどの動力を利用して、吸気に圧力をかけ過給を行なう。他の代表的な過給機として排気ガスの圧力を利用して過給を行なっているターボチャージャーが存在するが、ターボチャージャーはより低コストな過給システムであり四輪で広く採用されるものの、構造上レスポンスとパワーデリバリーの制御に難がある。カワサキでは、緻密なコントロールが要求されるバイクにはターボは不向きと判断。そのため、ニンジャH2シリーズでは、バイクへの搭載を前提に、すべてを新設計とした専用のスーパーチャージドエンジンが開発された。 カワサキのスーパーチャージドエンジンが極めて異例なのは、完全自社製品であることだ。過給機の心臓部たる過給ユニットは社外の専業メーカーから調達するのが一般的だ。しかし、ニンジャH2シリーズのエンジンでは、その過給ユニットの設計・生産をすべてカワサキの自社内で行なっているのだ。
なぜ、過給ユニットの自社生産という手段を選択したのか? その理由は、まずカワサキが単なるバイクメーカーではなく、さまざまな工業製品を作る重工業企業であり、自社内での過給ユニットの設計・生産が可能であったことが挙げられる。ニンジャH2シリーズ用の過給ユニットの開発は、同社のガスタービン部門と協力して行なわれたことが明かされている。また、バイクのエンジンにおいては過給機の装着例は極めて希少であり、既存品を使用した場合、求める性能要件を満たすことは難しい。スーパーチャージャーを装着し、数字上のピークパワーを記録するだけであれば、高コストな過給ユニットの自社生産や専用エンジンの開発を行なう必要はなかっただろう。だが、並外れたパワーを発揮するスーパーチャージドエンジン搭載車を、多くの人が楽しむための市販車として成立させるためには必須の手段であったはずである。ニンジャH2シリーズは、カワサキだからこそ作り得た、稀有な存在なのである。
パワー型スーパーチャージドエンジン
現在、カワサキはパワー型スーパーチャージドエンジンとバランス型スーパーチャージドエンジンを量産車に採用している。先行して開発が進められたのはパワー型で、ニンジャH2RとニンジャH2に搭載された。パワー型は、その名が示すとおり動力性能を重視したキャラクターで、パワー感あふれる過激な加速力が大きな特徴となっている。
過給機の駆動機構
ニンジャH2シリーズのスーパーチャージャーは、クランクシャフトから動力を取り出し過給を行なう。クランクシャフトに設けられたギヤが中間軸を駆動。チェーンを介して遊星ギヤを回転させ、最終的にインペラを回転させている。ニンジャH2の場合、クランクシャフトが1万4,000rpmで回っている時、中間軸は約1万6,000rpm。そこから遊星ギヤで大幅に増速され、インペラの回転数は13万rpmの超高回転に達する。
アルミインテークチャンバー
スーパーチャージドエンジンの過給流路
スーパーチャージャーによって圧縮した空気を、4つのシリンダーに均等に供給することをねらって、過給ユニットはシリンダー背面の中央に配置される。スーパーチャージャー専用設計エンジンがなしえた、理想のレイアウトといえる。
バランス型スーパーチャージドエンジン
ニンジャH2 SXに搭載されるバランス型スーパーチャージドエンジンは、速さだけでなく扱いやすさと燃費向上がコンセプト。ニンジャH2をベースとするが、過給ユニットをはじめシリンダーヘッドやカムシャフト、吸排気系に至るまで多くの部分に専用パーツを使用する。重きがおかれたのは、無過給状態での圧縮比向上。ニンジャH2から25%の燃費向上と、200㎰のハイパワーを両立させた。
インペラ翼形状の違い
インペラはバランス型専用品。実動時、非常に高圧縮となる過給エンジンにとって、ノッキング対策は重要な課題。その対策の一つが吸気温度を低くたもつこと。ニンジャH2 SXのエンジンでは、吸気流量が下がる低中回転域でもスムーズに吸気が流れるように、インペラ翼の角度と長さが変更された。
スーパーチャージドエンジンの変遷
2015年、衝撃的なデビューをはたしたニンジャH2/H2R。現在、ニンジャH2はラインナップされておらず、2017年に登場したニンジャH2 カーボンがスタンダードモデルとなっている。2018年には、ツアラーモデルのニンジャH2 SXが登場、2020年にはスーパーネイキッドのZ H2が発売される。ニンジャH2シリーズの今後の展開にも期待だ。
淺倉 恵介
フリーランスライター&エディター