ヨシムラ
戦後の復興期は、歯車やトランスミッション製造も請け負うエンジン供給メーカーだったカワサキ。以降、二輪メーカーとしての道を歩むうえで、カワサキはエポックメイキングなエンジンを生み出し続けた。
次世代標準となった水冷DOHC4バルブ
空冷Z系エンジンにて世界への扉を開き、時代をけん引してきたと評しても過言ではないカワサキ。次世代のZとして開発されたGPZ900Rは、カワサキ車についてはもちろん、以降のバイク用エンジンにおいてもお手本的な役割をはたすことになる。
GPZ900Rの開発時、さまざまなエンジン形式が試された。そのなかから選ばれたのが、水冷DOHC4バルブ並列4気筒。その当時、すでに空冷DOHC4バルブ形式は存在していたが、カワサキの次世代Z用エンジン像は破格のパフォーマンスを追求していたため、空冷DOHC4バルブ形式では高回転・高速走行や連続高速走行などのシチュエーションで熱歪みが発生してしまい、要件をクリアできないと判断。DOHC4バルブを採用するならば、水冷方式は欠かせないと結論付けた。
GPZ900R以降、排気量や気筒数を問わず、シリンダーヘッドにDOHC4バルブを採用するエンジンの多くは水冷となる。この冷却方式では、冷却水を循環させるための機構やウォータージャケットと称する水路を設けなければならず、エンジンのコンパクト化は難しいとされていたが、カワサキではバイク用エンジンに不向きだと考えられていたウェットライナー式をあえて採用。高い技術力をもって実用化することで、水冷化とコンパクト化の両立という課題を見事に解決した。
4スト250㏄ 水冷並列2気筒のルーツ 〜1985 GPZ250R〜
GPZ900Rの登場以降、カワサキの新開発DOHCエンジンは、水冷&4バルブの組み合わせが定番となった。250㏄モデルでは、GPZ250R用がそれにあたる。エンジン幅を抑えつつ高効率冷却するためのウエットライナー式シリンダーや、ロッカーアームを介してバルブを駆動するDOHC4バルブ機構など、盛り込まれた新技術はGPZ1000RXゆずり。最高出力は43㎰/13,000rpmと、当時の常識を打ち破る高回転型だった。
元祖スーパーネイキッド 〜1992 ザンザス〜
4ストローク版マッハⅢをコンセプトに開発されたザンザス。ある速度までは、GPZ900R同等という加速力が与えられている。エンジンはZXR400をベースに最適チューニングをほどこした専用機である。カムシャフトやピストン形状を変更することで、低中速域のパワーデリバリーを強化。最高出力は53㎰/11,500rpmと控えめだが、レッドゾーンは1万4,000rpmからのタコメーターがスパルタンさを表現している。
4スト400㏄水冷並列2気筒の先駆け 〜1986 GPZ400S〜
欧米では、古くからパラレルツインエンジンのミドルクラスが人気となっている。GPZ400Sは、GPZ500Sをスケールダウンした日本向けモデルで、新開発の水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンを搭載。ウェットライナー式シリンダーや1ロッカーアーム2バルブ駆動など、メカニズムはGPZ900Rゆずり。開発の初期段階では、GPZ900Rのエンジンをまさに両断したようなハーフニンジャだったという。
カワサキ初の400㏄水冷4スト並列4気筒 〜1985 GPZ400R〜
水冷GPZシリーズの中核として企画。ワンクラス上のパフォーマンスを目標に開発された。エンジンは、GPZ900Rのメカニズムを踏襲する水冷DOHC4バルブ並列4気筒。1カム2バルブ駆動のY字ロッカーアームやウェットライナー式シリンダーのみならず、センターカムチェーン式ながらストレート吸排気レイアウトが盛り込まれる。サーキットユース用にF3キットも用意された。
今に続くバーチカルツイン 〜1999 W650〜
Wブランドの復活を機に新造された空冷OHC4バルブ並列2気筒エンジン。エンジンありきで開発が進められたため、過去に例を見ないほど機能美にこだわっている。カムシャフトの駆動に高精度かつコスト増が避けられないベベルギヤ+シャフトをあえて採用。心地よい振動とスムーズな吹け上がりをねらい、360度クランクに一軸一次バランサーを組み合わせる。
スリーブレスメッキシリンダーの開発
ZX-12RやZX-9Rにて開発、以降は他モデルにも採用される。従来の鋳鉄スリーブ+アルミブロック方式に比べ、冷却性能および耐摩耗性が高められ、排気量の拡大も図りやすい。
初期バックトルクリミッター
カワサキは1985年エリミネーター900でバックトルクリミッターを初採用する。その後ZXR750や1000GTRなど、ロードスポーツモデルなどに多く搭載するようになっていく。役割は過大なエンジンブレーキによるエンジンへのダメージ回避、後輪ロックを軽減させるもの。クラッチハウジングにセラシ機構を設けて、スプリングの押す力を超える反駆動力が伝達された時、半クラッチ状態を作って過大なバックトルクを逃がす仕組み。後にスリッパ―&アシストクラッチへと進化する。
空気を制するカワサキ
いかにして燃焼効率を高められるか、空気抵抗を減らせるのか。エンジンを搭載する地上の乗り物において、取り扱いが難しくありつつも、味方にすることもできるのが空気だ。前身が航空機メーカーであり、二輪メーカーとしてはもっとも空気の有益性を理解しているのがカワサキだといえる。ボディワークでは、エアロダイナミックスの研究開発が究極レベルにあると思われるが、ことエンジンにおいては、ラムエアシステムの実用化。空気の質量および質量があるからこそ働く慣性力についての活用術に長けている。
ターボチャージャー
1900年代になってから実用化された過給機で、高い高度での飛行性能が優位となるレシプロエンジンの戦闘機などに活用される。高度が上がれば気圧は下がり、エンジンの要求する空気を自然に取り込みにくくなる。それを補うために採用された。過給メカニズムは、排ガスのエネルギーによってタービンを回し、インペラにて吸気を圧縮、燃焼室に送り込むもので、4輪の世界では80年代より普及している。二輪では同年代に搭載機が登場するも、普及するまでには至らなかった。
d.f.i
カワサキが開発した電子制御燃料噴射装置の略称で、アメリカ市場向けのZ1系エンジンに初採用される。当時はKEFIと称していたが、センサニングや制御系などの信頼性を高め、d.f.iとして再構築。Z750GPなどに採用したが普及に至らず。
ラムエアシステム
走行風として取り込める空気導圧を積極的に活用するアイデア。空気には質量があり、そのために働く慣性力を、過給効果として活用しているともいえる。単に車体前方のダクトマウスから吸気管に空気を採り入れればいいというものではなく、エアクリーナーボックスとキャブレターや空気管内に同じ導圧をかけることが重要となる。これにより、安定して扱いやすい過給効果が得られ、実用的なメカニズムとして搭載できるようになった。
KVSS
KVSSはカワサキ・バルブ・シンクロナイゼーション・システムの略称で、KR250Sに採用された排気デバイス。2ストロークの宿命といわれる排気慣性による掃気抜けを抑止するメカニズムで、2,000〜6,500rpmでのパワー不足を補うことができた。
K-CAS
K-CASはカワサキクールエアシステムの略称で、フロントカウル上部両サイドからシリンダーヘッド上部までダクトを接続、走行風を導き当てることで、高速走行時の熱ダレ対策とした。
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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https://twitter.com/kazu55z