ヨシムラ
高速道路を走行する時、いかに快適に走行できるか。この条件を満たす大きなポイントがウィンドプロテクションと疲れないライディングポジションだ。このうちウィンドプロテクションの役割をはたすスクリーンとカウルの効果をVERSYS 1000 SEでインプレッションした。
カワサキのお家芸空力をチェック
空力を活かした車両開発は、カワサキの得意分野だ。カウル以外にも、スーパーチャージャーやラムエアシステムなど、空気を利用した機能を最大限活用している。カワサキは自社製の風洞試験設備を完備しており、スクリーンやカウルなどの空力テストを実施しているのだ。
スクリーンとカウルの活用目的はレース用とツーリング用で異なるが、ここではツーリング目的の代表例として、VERSYS 1000 SEのスクリーンとカウルをインプレッションした。
VERSYS 1000 SEには、工具を使用することなく高さを調整できる大型スクリーンと、スリットやエアインテークを設けた複雑な造形を持つ大型アッパーカウルが採用される。しかるべき走行条件で200㎞/hを超える速度で走行してもウィンドプロテクションは非常に高く、かなり快適に走行できた。
ここでポイントなのが、ライダーを走行風から完全にガードしていないこと。ヘルメットには走行風がほとんど当たらないものの、肩の辺りには走行風が当たるのである。これはあえて走行風が当たるように設計していて、身体の一部に少しだけ走行風を当てることで、大型スクリーン特有の巻き込み風が発生するのを防いでいるのだ。スクリーンやカウルにベンチレーションやスリットを設けているのも、巻き込み風を防いだり整流効果をもたらせたりするためだ。実際、ウィンドプロテクションは高いのだけれど、スクリーンのどの高さでも、いかなるスピードでも巻き込み風は発生しなかった。
エアインテークの効果を実験
では、ベンチレーションをふさいだ場合、空気の流れはどのように変化するのか。実走して試してみた。ふさいだ箇所は、スクリーンとフロントカウル下部に設けられたベンチレーション。両方ふさいだ場合と、片方だけをふさいだ場合を試した。なお、スクリーンの位置は最上段に設定した。
両方ふさぐと、60㎞/hくらいで、肩の辺りで乱気流が発生した。空気の圧力が、パタパタとライダーをたたく感覚だ。もちろんこの乱気流はノーマルの状態では発生していない。さらに、200㎞/hを超えると、わずかに巻き込み風が発生した。
次にスクリーンのベンチレーションのみふさいだ。すると、乱気流と巻き込み風がおさまったのだ。一見、どれほどの効果があるのかと思ってしまうようなフロントカウル下部の小さなエアインテークが、乱気流と巻き込み風を抑える大きな役割を担っていたのだ。100㎞/hくらいまでは不規則な風を感じることはなく、実に快適だった。しかし120㎞/h以上では、2ヶ所をふさいだ時には感じられなかった強い風が、肩の辺りにかけて当たった。
2ヶ所ともノーマルの状態に戻すと、160㎞/hくらいまでは、スクリーンのベンチレーションのみふさいだ時より強い風が、肩のあたりに当たる。ところが200㎞/hくらいになると、ライダーに当たる風が弱くなったのだ。つまり、低中速域ではスクリーンのベンチレーションのみふさいだ状態が快適だが、高速域になるとノーマルの状態が快適ということになる。
たとえば初期型1400GTRでは、ウィンドプロテクションが高い反面、160㎞/hくらいで巻き込み風が発生した。しかし現在では、スクリーンやカウルの整流効果が大きくなり、長距離ツーリングがさらに快適に楽しめるようになってきているのだ。
カワサキ製風洞試験設備を使用した開発テスト
空力のテストにもっとも有効な設備が風洞試験設備だ。一口に風洞試験設備といってもさまざまで、開発車両のスケールモデルで試す小型の設備から、実物をテストできる施設までサイズも数多い。カワサキは明石工場の敷地内に、バイクを原寸サイズで試験できるカワサキ製大型風洞試験設備を保有する。カワサキが風洞試験設備で実施している試験の一例として、空力抵抗係数、フロント揚力係数、リヤ揚力係数、冷却特性が挙げられる。フルカウルモデルは排気量にかかわらず全車種風洞試験を実施していて、対象車種により設定スピードも変化させている。