ヨシムラ
エンジニアは常に最新の設計手法、電子制御技術、材質、生産技術などの動向に目を向け、それらを最新モデルに投入している。だが、それらの基本設計が半世紀以上に及ぶ技術の蓄積によるものであることを忘れてはならない。
過去からの実績の上に最新技術を投入
どのメーカーでもそうだが、ことカワサキは、開発に当たってやみくもに新しいものに挑戦するのではなく、つちかってきた技術を基に新機軸に発展させていく。
エンジンもしかりだ。車両キャラクターを左右するエンジン特性をしっかりと見すえているからこそ、それぞれのカテゴリーにおいて人々を感動させるコンセプトに合ったバイクを生み出せるのかもしれない。
たとえばZZR1400は、モチーフとなるZZR1100の存在がある。1984年の初期型GPZ900Rから発展したエンジンはサイドカムチェーン式で、2軸2次振動バランサーを装着した初の並列4気筒だ。快適でトルクフルで、エンジン性格はNinja ZX-14Rのねらいにも通じている。
また、ZZR1400への発展過程ではZX-12Rの存在も無視できない。スリム化を追求してチェーンを右側に移動、バランサーは1軸だった。
そして新設計された2006年式ZZR1400エンジンは、まさにこれらからの発展形である。右サイドカムチェーンで、バランサーを2軸とし、コンパクト化をねらい主要3軸を三角形に配置。また、ZX-12Rよりもロングストローク化を図り、さらに2012年式Ninja ZX-14Rでストロークをアップ。くしくもボアストローク比はZZR1100の0.763に近い0.773である。技術の進化は技術の蓄積でもあるのだ。
Ninja H2のスーパーチャージドエンジンは、タービンによって新気を高い圧力で燃焼室に送り込み、高出力化を図っているが、これには1984年の750ターボで取り組んだターボチャージャーの経験も活かされている。ターボが排気ガスでタービンを回転させているのに対し、Ninja H2は機械的にタービンを回すため、スロットルレスポンスやトルクの出方にリニアリティがある。それを現在の技術で高水準化させているのである。
ちなみに、Ninja H2のボアストロークはNinja ZX-10Rと同じだ。これもつちかってきた技術を活かしやすいと言えるのかもしれない。
ただ、Z1000系のエンジンは、2003年の初期型Z1000のエンジンこそ、ZX-9Rをベースとしていたが、現行型は2010年式Z1000で新設計されており、Ninja ZX-9Rとの関連性は見出しにくくなっている。
とは言え、2003年型Z1000以降、歴代のZ1000系がショートストローク傾向で、トルクフルながらも高回転域への伸び感は継承されている。現行型は歴代型よりもロングストローク傾向ながら、そのボアとストロークはNinja ZX-10R用よりもそれぞれ1㎜大きいだけで、それらの比はNinja ZX-10Rに近いのだ。
ただし、最新型のエンジンが単なる過去からの発展形というわけではない。それに電子制御も含めた最新技術を加え、最高水準のエンジンが具現化されているのである。
Ninja ZX-14R系エンジン
2006年のZZR1400は排気量を当時最大の1,352㏄とし、主要3軸を3角形配置、エンジン外寸をZX-12R以下とした。2軸2次バランサーを装着、スロットル径はZX-12Rから絞り、扱いやすさを重視。ボア×ストロークφ84×61㎜で、ZX-10Rとほぼ同等のボアストローク比とされたが、現行型はストロークを4㎜アップ、排気量を1,441㏄とする。
スーパーチャージドエンジン
Ninja H2は既存モデルにない走りを求め、スーパーチャージドスーパースポーツというこれまでにないバイクの形が実現された。エンジンは高性能に対する耐久信頼性が高められながら、基本構成や大きさはリッタースーパースポーツに準じている。カワサキにガスタービン技術があったからこそ実現したと言って過言ではない。
Z1000系エンジン
初代Z1000が登場したのは2003年。1998年型ZX-9Rを2.2㎜ボアアップしたエンジンを搭載、エキサイティングな特性であった。そして、2010年型で現行型につながる完全新設計エンジンに刷新。ボアをほぼ同じままにストロークアップによって排気量は953㏄から1,043㏄とされた。
パラレルツインエンジン
エンジンの基本設計を共有するニンジャ250と400系、そしてニンジャ650系といった軽中量級ストリートスポーツは、水冷DOHC4バルブで、180度クランクのパラレルツインを搭載する。コンパクトかつ構造がシンプルで、高回転高出力の追求ではなく、日常域の中速トルクを重視した現実的な特性を得やすいものとなっている。
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。