取り扱い時の注意
絶版車とはいえ、きちんとメンテナンスされた車体であれば基本的な取り扱い方法は現行車とそんなに差があるものではない。普通に街乗りやツーリングができるはずだ。ただしメカニズム的には古い部分があるため、注意したいポイントもある。“停める時にガソリンコックをオフにする”という簡単なものから“ポイントのギャップを調整する”などの知識が必要な整備系まで、いくつか紹介しよう。
[純正コック]停車時にオフにすること。キャブレター側の金属ニードル部が摩耗するとオーバーフローしてしまうことがある。車種によってはガソリンが燃焼室に入って、ウォーターハンマー現象でコンロッドを曲げてしまうこともある
[キャブレター]70年代以前のバイクはポイント点火式が多い。走れば走るほど接点が減っていくので、定期的なメンテナンス、すなわちギャップ調整が欠かせない。オリジナルにこだわらなければフルトラにすることでメンテナンスフリー化できる
[ポイント点火]キャブレターだからといって特別に気を使う必要はない。正しく整備されていれば現行車とさほど変わらない乗り味になる。ただ強制開閉式の場合、ラフなアクセル操作で息継ぎすることも。しかし慣れでカバーできる範囲である
[フロート室]長期間、エンジンをかけない場合はフロート室からガソリンを抜いておこう。少量のガソリンは劣化しやすく、蒸発するとタールなどの異物が残りジェット類を詰まらせてしまう可能性があるからだ
[開放型バッテリー]発電が不安定なのでアイドリング時にライトを点けていると弱りやすい。また開放型のバッテリーはバッテリー液の点検が必要だ。ガソリンコックを開けてから少し間を置き、ガソリンがフロート室に行き渡ってからセルを回すようにするとバッテリーの負荷が減る
[イグナイター]定期的なメンテナンスが必要なポイント式をフルトラ式に変更するとメンテナンスの必要がなくなる。また電気の流れ方が安定し、プラグに強い火花が飛ぶようになるので、エンジンにとってもプラスな面が多い
[オイル]オイルの質が今ほどよくない時代に設計されたエンジンは、現在の100%化学合成オイルを入れると漏れてしまうことも。半化学合成オイルか鉱物オイルの方がトラブルが少ない。潤滑性が気になるなら添加剤を加えるという手もある。写真はウエマツが独自に開発した絶版車用のオイル
希少なトラブル
長年、絶版車を取り扱っていると「なぜこんなことに?」と思うようなトラブルに遭遇することがある。古い上に海外からの輸入車もあり、所有者が素性をつかみきれていないことが多いのもその理由のひとつだ。考えられないようなトラブルでもウエマツはなんとか解決するが、なかには交換しかないと言わざるを得ない状況にもぶつかるそうだ。
[3気筒]マッハ系のシリンダーはスタッドボルトが通る穴のスキ間がせまいので、サビでシリンダーとスタッドボルトが固着し外れないという事態に。ひどいものは10tプレスで押してもびくともしなかったという
[エンジン内部に水が…]クランクケース内に水が入ったまま長期間放置されると、内部パーツがサビて動かなくなる。右はクラッチハウジングだが、クラッチ板なども含めてサビで完全に固着している。こうなると交換しかない
年々増えていくリペアパーツ
最近はリビルドパーツの種類が増え、消耗品はもちろんハーネスや外装など、対応する車種も増えました。外観は昔のまま中身は現代のモノで性能アップしているサスペンションのようなパーツも。またリペア技術も向上しているので、昔は致命傷で修理不可能だったトラブルが、現在では治療可能になったことも珍しくありません。絶版車を維持するのは一昔前より今のほうがずっと楽になっていますね。(ウエマツ整備士)
横田 和彦
1968年6月生まれ。16歳で原付免許を取得。その後中型、限定解除へと進み50ccからリッターバイクまで数多く乗り継ぐ。現在もプライベートで街乗りやツーリングのほか、サーキット走行、草レース参戦を楽しんでいる。