ヨシムラ
日常生活のなかでカワサキネタを発見しようというこの企画。今回のカワサキネタは、いわゆる“モノ”ではないが、モノ以上に重要な意義があるといっても過言ではない。今回は、カワサキが打ち立てたある原則について話そう。
上の写真を見て、「カワサキ製の像か」と思った人もいるだろう。しかし、今回のネタは像ではない。では、この像はというと、現代の労働基準法の基本原則である8時間労働制に関する碑だ。「カワサキと8時間労働制の間に、なにか関係があるの?」と疑問を抱いた人、大ありである。実は、日本で最初に8時間労働制を取り入れた企業は、カワサキ(当時は川崎造船所)なのだ。つまり、8時間労働制は、神戸で発祥したということ。そして、それを記念して神戸ハーバーランドに建てられたのが、この像だ。
川崎造船所の創業者である川崎正蔵は、経営者の後継ぎとして松方幸次郎を招聘した。松方は学生時代にエール大学などへの留学経験を有し、進歩的な発想と卓抜な国際感覚の持ち主であった。1896年に川崎造船所の初代社長に就任してから、松方は乾ドック(陸上の造船施設)などの設備を次々に建造し、川崎造船所の生産力を強化した。また、鉄道事業などにも進出、多角経営の礎を築き上げた。このように、川崎造船所の発展に努める松方であったが、その一方、海外で育んだ国際感覚と先進的な経営理念に基づいて、欧米諸国の労働環境についても研究していた。1919年には、国際労働会議にも出席している。
国際労働会議が開催された同年、社内で労働争議が勃発。松方はこの時、先の国際労働会議において提唱された8時間労働制を争議団に示し、同社の就業規則に盛り込んだ。8時間労働制が、日本に初めて正式に導入された瞬間である。
現代において労働の基本原則となっている8時間労働制を日本に初めて取り込んだ人物が、カワサキの初代社長であるという事実。これはある種、カワサキの功績といってもいいのではないだろうか。