ヨシムラ
Text & Photos:Kiyoshi Nishimura
※ドイツジャーナリスト連盟(DJV)会員、写真家
9月30日にドイツ・ケルンで開催されたインターモト。そのプレスデーを取材してきた。世界最大規模となるバイクショーの目玉の一つは、文句なくニンジャH2Rだった。インターモト開催前からスペシャルウェブサイトで、一部ではあるがニンジャH2の情報が発信されており、プレス関係者もこのモデルに大きな関心を寄せていた。
そしてプレスデー、プレスは懇意のメーカーの垣根を越えて集まり、午前10時半から始まったカワサキの記者会見は超満員だった。ドイツの雄たるBMWの記者会見がすぐ近くのブースで10時から開催されていたのにもかかわらず、そちらが終了しないうちにプレスはカワサキのブースに移動し、場所を確保して臨んだ記者会見であった。カワサキの記者会見の最初には、モデルチェンジしたヴェルシス650/1000がアンベールされた。しかしプレスの多くは心の中で「おいおい、今日はニンジャH2だろう、一秒でも早くニンジャH2のシートをめくってくれ〜」と考えていたことだろう。そしてそれは、ニンジャH2Rというモデル名で、ついに我々の目の前で世界初公開された。
会見のなかで最初に出た質問は「ライトもミラーもないが、これはプロトタイプですか?」であった。この質問に対し、すぐにカワサキの関係者らしきドイツ人が「これはレースバージョンで公道は走れません」と答え(アナウンスはされなかったが、どのレースに照準を合わせているのか非常に気になるところだ)、とっさに「では公道バージョンは何馬力なの?」の声が上がる。すぐさま「公道バージョンは保安部品を付けたタイプで、工場出荷で200馬力以上の予定です。また、“最強”とは今の時代は最高速の数値を指すものではなく、時速300kmまでイチバンという意味で最強なのです」の声が聞こえた。しかし、広いブースが狭く感じられるほどの超満員だったため、誰が受け答えをしているのか「声聞こえど、姿見えず」な状況に身を置いていた。こんな大熱気な会見は、筆者的にはマイクロソフト社の元最高責任者ビルゲイツが、ドイツのIT見本市に来た時以来で、インターモトでは記憶にない。逆を言えば、それだけセンセーショナルなことだったといえるだろう。
会見後になんとか人垣をかき分け前に出て、100枚は撮っただろうニンジャ H2Rは、ほんの50cmの目前にあった。このバイクは、肉厚のクロモリ鋼であろうパイプを使ったトレリスフレームを採用している。公道で200馬力超え、レース用では300馬力であろうと、硬いだけのフレームではこの領域のマシンは安全にはまっすぐ走れないし、公道で自在に曲がることもかなわないから、カワサキの英断だったことがうかがい知れる。つまり、ガチガチでない、しなるフレームを採用してきたのだ。ここ10年以上カワサキは、グループ内の重工業用の技術を使える環境を社内で整えているので、シミュレーションは完璧に違いない。次に発表されるニンジャH2は他の全メーカーが追わねばならぬターゲットとなるバイクだといえよう。スズキ・GSX1300Rハヤブサが登場したときのように、一時的に先を行かれることはあるかもしれないが、いつも最後には勝つ。そんなカワサキは我々に勇気と希望を与え続けてくれている。
※動画は筆者が撮影したものではありません