ヨシムラ
国内最大の草レースと称される『テイスト・オブ・ツクバ』。総参加台数は220〜230台、観客数も数千名を超えることがめずらしくないほどで、国内の全日本ロードレース選手権などのメジャーレースと比較してもそん色ない規模で開催されるサンデーレースでもある。
また、1970〜80年代の鉄フレーム車同士で、カスタムショップとアマチュアライダーが大挙参加しながらも、国内屈指のハイレベルな戦いが繰り広げられるレースとしても知られている。ハイエンドクラスのハーキュリーズクラスともなると国際プロライダーも参戦するほどで、少し前の全日本ロードレース選手権に匹敵するタイムで周回するほどだ。それもGPZ900RやZRX1200Sといった旧世代のモデルで! それだけに全国から腕自慢が集い、栄冠を目指す構図となっている。
しかし、2019年末の新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、2020年春は開催中止。2020年秋は無観客試合、そして2021年春は前売り券のみの入場者制限、2021年秋は1日あたり2,000名、と感染状況を見据えながら段階的に制限を解除。このたび全国的に緊急事態宣言やまん延防止等措置がようやく解除されたこともあり、2019年以前と同じく、観客を通常どおり迎え入れての開催となった。
テイスト・オブ・ツクバは現在、土・日の2デイ開催となっている。かつては1デイで10クラス前後のレースが開催されていたが、進行上タイトになりすぎたことから分散開催となり、土曜日が花形にしてテイスト・オブ・ツクバの象徴でもあるモンスタークラスなど1970-1980年代初期の空冷モデルを対象としたクラスを中心とし、日曜日は水冷車を中心としたクラスを中心とした日程となっている。今回の土曜日は事前の天気予報が曇り一時雨という微妙な表現だったことも祟ってか若干観客は少ないと思ったが、日曜日はかつての賑わいを取り戻すかのような観客数に恵まれることになった。
さて、そんなテイスト・オブ・ツクバで今回新設されたクラスがある。それが『ストリートファイター』で、旧車レースというテイスト・オブ・ツクバに変化をもたらすことがコンセプトになっており、現代の技術で造り上げられたハイスペックなストリート&ネオクラシックスタイルのマシンが参戦。具体的にはZ900RSや、Z H2などがそれに該当する。他社だとスズキ・KATANAやヤマハ・MT-09/10やドゥカティ・ストリートファイターなとが含まれる。従来の大排気量水冷ネイキッドモデルを対象としたF-ZEROクラスと被りそうだが、改造範囲がかなり制限されており、基本的な安全装備を有するサーキット仕様への変更のみで参戦を可能としている。
そんなストリートファイターにハードパーツメーカーのPMCはYSS ARCHI Racing with againとしてZ900RS CAFEで参戦。改造範囲は先に触れたようにかなり限定的で、性能面を左右するパーツはフルエキゾーストとECU、リヤショック、そしてブレーキパッドの交換のみが認められるといった具合だ。場合によっては公道を走っているフルカスタムZ900RSよりもカスタムポイントそのものは少ないのだが、YSS ARCHI Racing with againは文句ない大差をつけてポールトゥウインを飾り、その実力を示したのであった。
YSS ARCHI Racing with again #51 田中信次
テイスト・オブ・ツクバが多くのライダーたちから支持されるのは、単なる旧車レースだからではない。自分たちが乗っている愛車と同じようなカスタムマシンが最新モデルに匹敵、あるいは凌駕する姿を目の前で披露しているからだ。そういった意味でハイエンドクラスのハーキュリーズクラスだけではなく、大排気量水冷ネイキッドモデルが主体となるF-ZEROクラスや、大排気量空冷車が主体となり1990年代以降の前後17インチ車が大挙参戦するモンスターエヴォリューションクラスも一般ユーザーの関心が高い。そのモンスターエヴォリューションクラスで注目だったのはZ1000Jで参戦したYSSレーシング&AGAIN。すでに高年式ネイキッドモデルが大挙参戦しているなかで1980年代車はすでに半数以下となっているが、そのなかでも果敢にタイムアタックし、予選4位、決勝2位という結果を残している。ちなみに決勝8位までに1980年代車はZ1000Jと8位のZ2のみであり、同クラス内でもスペック的に厳しくなっているのは事実とはいえ、そのなかでもハイパフォーマンスを示すことになった。
YSSレーシング&AGAIN #52 田中信次
そして注目のハーキュリーズクラスでは#414 Ninja H2Rを駆る光元康次郎が見事優勝を飾っている。ストレートでは文句ない速さを見せつけつつ、コーナリングでも他車に引けを取らない快走ぶりを見せ、決してNinja H2Rが馬力自慢の最高速マシンだけではないことを示していた。
テイスト・オブ・ツクバは、さまざまなマシンがしのぎを削るレースだ。今や時代遅れとなってしまった空冷Z系やゼファーシリーズなどの空冷車、高年式ではあってもすでに廃れたツインショックを採用するZRX1100/1200、今やめっきり見る機会が減ったGPZ900RやGPZ1000RX、はたまたその逆に、最先端の最新ネオクラシックネイキッド、さらには通常のメジャーレースに参戦できないNinja H2Rなどさまざまな時代のさまざまなモデルが会し、それぞれのカテゴリーの最強の座を争い続けている。片や最新、片や30〜40年前のマシン。しかしそのタイムは拮抗し、肉薄する。そんなある意味で「夢」を見られるのがテイスト・オブ・ツクバ最大の魅力といえる。
次回開催は11月5日(土)、6日(日)。さまざま人たちの夢が詰まったレースを、見たことがない人にこそ一度見ていただきたいものだ。
四ッ井 和彰
カワサキイチバンを運営するクレタで各出版物の編集部に長年所属。カワサキバイクマガジンやカスタムピープルでは編集部員として記事執筆や写真撮影などを担当した。カワサキ歴は2000年代後半になってからGPZ1000RX、KSR-Ⅱ、GPZ600Rなどを乗り継いできた遅咲きの1972年生まれ。