ヨシムラ
4ストロークマシンとしてカワサキから初めて純粋培養されたW1。発売から半世紀以上経つ現在でも、全身から溢れんばかりの質感をかもし出している。このマシンが、こんなにも長い間ライダーに愛されるようになるとは、当時、一体誰が考えただろうか?
1960年代、バイクといえば英国車が隆盛を極めていた。そんななか、1965年にカワサキは、国内最大排気量“カワサキメグロK2”を完成させたのである。
しかし、ビッグバイク市場として、新規開拓を狙っていたアメリカにおいて、K2はパワー不足であり、ライバルのトライアンフT100・BSA・A10などの650㏄OHV2気筒エンジン軍団に太刀打ちできないと判断された。これにより、独自開発をもくろんだ新エンジン“K3プロジェクト”は幻と消え、K2のエンジンをベースに可能な限りパワーアップを図る手段が取られた。
これは、もう一台の対アメリカ輸出車としてカワサキが開発に全力を注いでいた2ストロークマシン“SAMURAI”との同時出荷を狙っていたためで、新型4ストロークマシンの開発期間が1年しかなかったことも挙げられる。
そして、K2発売の衝撃からわずか7ヶ月後の10月、カワサキはK2型改造試作車X650を東京モーターショーに出展させる。排気量は624㏄。K2のシリンダーを極限まで(8㎜)ボアアップした結果の排気量だった。また時代は、日本国内でも首都高速や名神高速道路(小牧〜西ノ宮)の完成が続き、高速化に対応できるバイクが求められていた。こうしたなか、X650を経て、カワサキから登場したのが“ダブワン”の愛称で親しまれるW1だった。
この新たに誕生した国内最大排気量マシンは、47㎰/6500rpmの最高出力に5・4㎏-m/5500rpmのトルクをほこり、K2よりも最高出力で11㎰、トルクは1.2㎏-m増加し、最高速も165㎞/hから180㎞/hへとアップした。そしてW1の進化の特徴は性能面だけではなく、デザインも一新されたことにある。マシン全体のイメージを左右するガソリンタンクは当時アメリカで流行っていたキャンディトーンを採用し、アメリカで市場調査を行なった結果、メインカラーは赤を使うことに決定した。
さて、こうして性能もデザインも満を持して市場に送り出されたW1だが、アメリカでの評判はカワサキの期待を裏切るものだった。長距離を高速で連続走行するというアメリカではごく普通の使用に対し、あまりに振動がすさまじくクレームが相次いだのだ。走りながらウインカーが落ちるのはまだマシなほうだったという。このため最終的にW1はW2SSをもってアメリカから撤退することになった。
しかし、今となってはこの振動騒ぎも、W1らしいコミカルなエピソードだ。そしてアメリカとは異なり、W1シリーズは我が国ではこよなく愛され、登場から実に10年間にもおよぶロングセラーを達成。その磨き込まれた雄姿は、半世紀以上の歳月を経た今でも、ファンを魅了してやまないのである。
1966 W1
W1が発売になった1966年(昭和41年)の出来事
ひのえうま迷信で出産数前年比25%減/カー、クーラー、カラーテレビが3Cに/流行語「こまっちゃうな」/怪獣のビニール人形が人気に/人生相談や家出人捜しなどの企画がヒットし定番に
1968 W1S
W1Sが発売になった1968年(昭43年)の出来事
小笠原諸島が日本に復帰「東京都小笠原村に」/白バイ警官を装った男が現金3億円を強奪/映画「俺たちに明日はない」「2001年宇宙の旅」がヒット/3時のあなた(フジテレビ)が午後の時間帯を開拓/「少年ジャンプ」創刊/漫画「あしたのジョー」「ハレンチ学園」が人気に
マシンギャラリー
「W1&W1S」のスペック一覧
1966 W1 | |
---|---|
全長×全幅×全高 | 2,135×865×1,090(㎜) |
軸間距離 | 1,420㎜ |
最低地上高 | 140㎜ |
乾燥重量 | 199㎏ |
エンジン形式 | 空冷4サイクル2気筒OHV |
エンジン総排気量 | 624㏄ |
ボア×ストローク | 74×72.6(㎜) |
圧縮比 | 8.7 |
最高出力 | 47㎰/6,500rpm |
最大トルク | 5.4㎏-m/5,500rpm |
キャブレター | ミクニVM31 |
エアクリーナー | 不織布 |
変速機形式 | 前進4段リターン式 |
潤滑方式 | ドライサンプ式 |
オイルタンク容量 | 3.0ℓ |
サスペンション | (F)130㎜ストローク (R)70㎜ |
タイヤサイズ゙ | (F)3.25-18 4PR (R)3.50-18 4PR |
燃料タンク | 15ℓ |
最高速度 | 180㎞/h |
最小回転半径 | 2.30m |
1968 W1S | |
全長×全幅×全高 | 2,145×865×1,100(㎜) |
軸間距離 | 1,420㎜ |
最低地上高 | 145㎜ |
車重 | 199㎏ |
エンジン形式 | 空冷4サイクル2気筒OHV |
エンジン総排気量 | 624㏄ |
ボア×ストローク | 74×72.6(㎜) |
圧縮比 | 9.0 |
最高出力 | 53㎰/7,000rpm |
最大トルク | 5.7㎏-m/5,500rpm |
キャブレター | ミクニVM28 |
エアクリーナー | 不織布 |
変速機形式 | 前進4段リターン式 |
潤滑方式 | ドライサンプ式 |
オイルタンク容量 | 2.5または3.0ℓ |
サスペンション | (F)130㎜ストローク (R)70㎜ |
タイヤサイズ゙ | (F)3.25-19.4PR (R)4.00-18.4PR |
燃料タンク | 15ℓ |
最高速度 | 185㎞/h |
最小回転半径 | 2.30m |