ヨシムラ
スーパーチャージドエンジン搭載のH2シリーズに、ネイキッドのZ H2が登場したのが昨年のこと。そして今回、電子制御サスペンションKECSを搭載したZ H2 SEが加わり、その走りの進歩の著しさに驚かされることになった。
巨体の挙動にも絶大な確信を持てる
カワサキの電子制御サスペンションKECSは、すでにニンジャZX-10R SE、ニンジャH2 SX SE+、ヴェルシス1000 SEに採用され、それぞれにすばらしいメリットを生み出している。
そして21年モデルでは、Z H2にKECSが搭載され、モデル名をZ H2 SEとしてラインナップに加わった。しかも、ヴェルシス1000SEにひと足早く採用されたスカイフックテクノロジーを装備しているのだ。そんなわけで、今回は試乗車を起伏と不整の多いワインディングに持ち込んでみることにした。
走行シチューションは、路面から突き上げられて車体がバウンシング(前後一緒にサスペンションが伸縮する現象)して、さらにそのまま迫るコーナーに向けて減速せねばならず、不規則なピッチングモーション(ここでは後部が持ち上がる)が出てしまうようなところ。そこを走ってみると、KECS非装着車では経験したことがないほど安定したまま通過できた。
スカイフックテクノロジーはレインモード(サスペンション設定は自動的にソフトに設定される)に採用されているのだが、最初はサスペンション設定をノーマルモードで走り始めた。だが、私はその瞬間、「これぞスカイフックの効果」と勘違いしてしまったほどである。KECSはサスペンションのストローク量やストロークスピード、車速や車体姿勢などのデータをもとに、コンピューターが最適な減衰力を判断し、随時理想の減衰力に調整してくれる。そのため、バウンシングやピッチングが抑えられたのだろう。もちろん、スカイフックテクノロジーが採用されたソフトモードでは、乗り心地重視のゆったりとした乗り味で、大きくバウンシングしそうなのに、こともなげに難所を通過していく。
また、Z H2 SEのような巨体と重さだと、挙動の余韻が残り、ライダーがコントロールしにくくなるのでは?との不安も付きまといがちだが、とくにハードモードでは挙動がピタリと安定したままコーナリングすることができる。それでいて、サスペンションの硬さのネガもない。
ブレンボのスタイルマキャリパーとマスターシリンダーで強化されたフロントブレーキも絶品で、実に強力かつコントローラブル。IMUが検知する加減速状態、ブレーキ液圧によっても制御されるKECSとのマッチングもあって、強くレバーをにぎり込んでいった時、リヤショックが伸びる状態が手に取るように伝わってくることにはおそれいる。
Z H2 SEに乗れば、バイクがここまでコントローラブルで扱い切れるモノに進化していることに感心することしきりである。
ライディングポジション
Z H2とZ H2 SEのメカニズム比較
Z H2の上位型SEは、電子制御サスペンションKECSを搭載、フロントブレーキが高品位化される。表には示されていないが、ブレーキホースもステンレスメッシュ化される。基本構成や電子制御装置に関しての差異はない。SEの価格はスタンダードより約30万円高となるが、走りにはそれがしっかり反映されている。
Z H2 | Z H2 SE | |
---|---|---|
KECS(電子制御サスペンション) | – | ○ |
ブレンボ製フロントキャリパー | M4.32 | Stylema |
ブレンボ製マスターシリンダー | – | ○ |
ライディングポジション
ショーワ製スカイフックテクノロジー
電子制御サスペンションKECSは、ショーワの電子制御サスペンションEERAをベースとして、カワサキ車に展開した技術だ。Z H2 SEでは基本機構をカートリッジフォークとBFRC liteとしていて、ストロークセンサーを内蔵し、0.001秒毎に検知したストローク状態、前後輪回転数、フロントブレーキ液圧、IMU が得た加減速などの情報から減衰力を随時最適化している。そして、ショーワのスカイフックEERAでは、EERAを基本にスカイフックテクノロジーのソフトウエアが加えられる。IMU(慣性計測ユニット)が上下動とピッチングモーションの状態を検知。そのデータに応じて減衰力制御を加えることで、バネ上の運動状態を最適化させている。Z H2 SEではレインモード(サスペンション設定はソフトモード)で路面追従性が向上する。
2021年モデル Z H2 SEの主なスペック
車名 | Z H2 SE | Z H2 | |
---|---|---|---|
マーケットコード | ZR1000LMFNN | ||
型式 | 2BL-ZRT00K | ||
全長x全幅x全高 | 2,085㎜×815㎜×1,130㎜ | 2,085㎜×810㎜×1,130㎜ | |
軸間距離 | 1,455mm | ||
最低地上高 | 140mm | ||
シート高 | 830mm | ||
キャスター/トレール | 24.9°/ 104mm | ||
エンジン種類/弁方式 | 水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ | ||
総排気量 | 998cm³ | ||
内径x行程/圧縮比 | 76.0mm×55.0mm/11.2:1 | ||
最高出力 | 147kW(200PS)/11,000rpm | ||
最大トルク | 137N・m(14.0kgf・m)/8,500rpm | ||
始動方式 | セルフスターター | ||
点火方式 | バッテリ&コイル(トランジスタ点火) | ||
潤滑方式 | ウェットサンプ | ||
エンジンオイル容量 | 4.7L | ||
燃料供給方式 | フューエルインジェクション | ||
トランスミッション形式 | 常噛6段リターン | ||
クラッチ形式 | 湿式多板 | ||
ギヤ・レシオ | 1速 | 3.076(40/13) | |
2速 | 2.470(42/17) | ||
3速 | 2.045(45/22) | ||
4速 | 1.727(38/22) | ||
5速 | 1.523(32/21) | ||
6速 | 1.347(31/23) | ||
一次減速比 / 二次減速比 | 1.480(74/50)/2.555(46/18) | ||
フレーム形式 | トレリス | ||
懸架方式 | 前 | テレスコピック(倒立・インナーチューブ径 43mm) | |
後 | スイングアーム(ニューユニトラック) | ||
ホイールトラベル | 前 | 120mm | |
後 | 134mm | ||
タイヤサイズ | 前 | 120/70ZR17M/C (58W) | |
後 | 190/55ZR17M/C (75W) | ||
ホイールサイズ | 前 | 17M/C×MT3.50 | |
後 | 17M/C×MT6.00 | ||
ブレーキ形式 | 前 | デュアルディスク 320mm(外径) | |
後 | シングルディスク 260mm(外径) | ||
ステアリングアングル (左/右) | 29°/ 29° | ||
車両重量 | 241kg | 240kg | |
燃料タンク容量 | 19L | ||
乗車定員 | 2名 | ||
燃料消費率(km/L) | 22.5km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時) | ||
16.9km/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時) | |||
最小回転半径 | 3.3m | ||
カラー | メタリックディアブロブラック×ゴールデンブレイズドグリーン(GN2) | メタリックディアブロブラック×メタリックフラットスパークブラック(BK1) | |
メーカー希望小売価格 | 217万8,000円(税込み) | 189万2,000円(税込み) |
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。