ヨシムラ
あらゆる状況において素直にして軽快
開発者のコメントが耳に残っていた私は、試乗コースとなったスパ西浦モーターパークのピットロードを走り始めるなり、ゆっくり大きくスラロームしてみた。何と、まさしくコメントどおりではないか。マシンの3次元的な動きを、空気がさまたげない感じである。
そして、そのことがあらゆる場面において21年型の美点として感じられる。コーナーではマシンのバンク特性などの素性が如実に伝わってきて、マシンの動きをイメージしやすいし、ライン取りの自由度も高い。加えて、加速しながらの進路変更も軽くこなせるほどである。
フロントフォークのスプリングが柔らかくなり、ピボット位置が1㎜下げられたことで、スロットルワークで姿勢変化を生じさせやすくなったこと、フォークオフセットが大きくされたことで舵角を入れやすくなったこともあろうが、何より空力面での恩恵を感じずにはいられない。
ダウンフォース増大の効果も大きく、高速域に向けてのフル加速中においても、軽くなりがちな前輪荷重がしっかりたもたれ車体が安定している。スクリーンが40㎜高くなり、ヘルメットにかかる風圧も小さく快適だ。
また、アンダーブラケットのクランプ幅が下方に拡大されたことで、加速状態からブレーキングに移行する際も常に安定していて、マシンからの情報もつかみやすい。
エンジンは従来型と同様に、コントロール性が上質である。ミッションがワイドレシオ化され、1~3速でややショートになっているのだが、1コーナーから最終コーナーまで1速キープでギクシャクしない一方、2速キープでもスムーズに走れて、柔軟性とワイドレンジぶりにも感心させられる。
フロントブレーキは強力だが、効き方はあくまでもスムーズ。ブレーキホースにステンレスメッシュタイプを使う10RRよりも、レバーの引きシロの変化からのフィードバックが豊かで、唐突さとは縁遠いフィーリングにホッとさせられる。
このすぐれた空力特性はワークスマシンにもそのまま投入されている。マシンの動きに対する空気抵抗の小ささが、J・レイのライディングスタイルと相性のいいハンドリング特性をより鮮明にしており、事実、事前テストではレイの評価も高く、好タイムを叩き出している。まさに王道を行くようなカワサキのスーパースポーツである。
ライディングポジション
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和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。