ヨシムラ
2019年、W800はフロントホイールが18インチ化されるとともに、大刷新されて復活を遂げた。そしてさらに翌年に登場した2020年型Wは、19インチ化され走りも真のレトロスポーツを思わせた。
ホイールサイズ変更が乗り味に及ぼす影響
正直に言うと、2011〜16年型のW800には、僕が頭に描いている理想的なレトロスポーツ像との間に隔たりがあるところもあった。W800のことを大型実用車と表現したことがあったのも、そのためである。
でも、この2020年型W800は理想像を見事なまでに具現化している。ここまで楽しくいいバイクに変貌しているとは思わなかったほどである。
お断りしておくと、1年前(2019年)に登場したフロントホイール18インチのW800ストリートとカフェには乗ったことがないので、それらと比較して言及することはできない。
でも、はっきり言えるのは、このフロントホイール19インチの2020年型W800には、19インチのよさが最高に引き出されており、レトロスポーツらしいキャラクターが昇華されていることだ。しかも、同じフロント19インチの11〜16年型に対して、別モノと言えるほど完成度が高められている。
試乗する前に半世紀前のW1Sのことを思い出してしまったせいもあるのだろうか。かつてほどハンドルバーが幅広の大型アップではなく、エンジンが驚くほどスムーズなことに肩透かしを喰らった気分になるが、それゆえ逆にすんなり受け入れることができ、ホッとさせられる。
それでも、エンジンの鼓動がしっかり奏でられ、その趣きにうれしくなる。それでいて、極低回転域での粘りがあり、神経質さとは無縁の大らかさが伝わってくる。
そんなエンジンは全域トルクフルで扱いやすく、高回転側にある4,800rpmのピークに向かってしっかりトルクが立ち上がっていく。さらにタコメーターのレッドゾーンが始まる7,000rpmまでストレスなく回り切り、スポーティでもある。
ハンドリングは、60〜70㎞/hぐらいだと、ステアリングに不安定さが残っていないでもないが、2011〜16年型とは違い、車体に剛性感があって、はるかに安心感がある。しかも、100㎞/hに向かって、より安定していく。前後輪の動きもビシッと芯が通っている印象でもある。この高速安定性は2011〜16年型とは段違いで、高速巡行も心地いい。
そして、特筆すべきことに、60年代から70年代に発売されたWの19インチ車にあったように、リズミカルな体幹の伸縮をともなった動きによって、寝かし込み寸前の初期旋回において舵角を入れることができる。車体全体での剛性バランスが最適化されており、マシンコントロールに的確にマシンが応えてくれる。
フロントホイールが17か18インチだったら、マシンなりにフロントから高い回頭性を見せるのかもしれない。でも、それが必ずしもスポーティなわけではないと僕は思う。
フロント19インチ車のハンドリングを、安定性重視でダルであると考えるべきはない。マシンを操るおもしろさがあるという意味で、このW800は大変スポーティなモデルである。
W800は、扱いやすいエンジン、快適なライディングポジション、十分なハンドル切れ角もあって、使えるバイクである。でも、その一方で走りに心を躍らせることもできるのだ。
Wのテイストがもっとも濃厚とされるモデル
2020年型として登場したW800は、2019年型のW800ストリート/カフェをベースとしているが、フロントホイールを19インチに変更するだけでなく、スタイリングも元祖Wの持ち味が強く再現されている。ホイール径や車体ディメンションは、2011〜16年型に準じているが、2019年型W800ストリート/カフェの車体に講じられた剛性アップ仕様を踏襲している。ハンドリング面で画期的な進化を遂げているばかりか、オリジナルのフィーリングが再現されている。
W800(2020)の足着き
W800の変遷
1966年型W1をモチーフとし、W800の先代となるW650が登場したのは1999年のこと。2006年には国内向きにW400も市販されてきた。W800に拡大進化されるのが2011年で、ボアアップによって排気量が拡大されるともに、インジェクション化された。そのW800も2016年にファイナルエディションを迎え、その後、いったん幕を閉じる。2019年にストリート/カフェとともに、復帰をはたす。
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。