ヨシムラ
レースシーンにおけるクラス最速性能にこだわり進化を続けるミドルZX-R。37㏄の排気量増量と最新の電子制御技術が与えられた2014年型6Rの、メカニズムと走行性能を分析する。このモデルは、走りのステージを広げた懐の深さが魅力だ。
「曲がる」から自在に「曲げられる」へ。メカとデバイスの進化
1995年に登場したブランニュースーパースポーツ・ZX-6R。欧州にて人気の600㏄クラスでは、すでにZZR600をラインナップ済みだったが、ZX-6Rはレーシングニーズに合わせてスポーツ性が伸長されたモデルだった。その後も、クラスのレースシーン最速をテーマに約2年のスパンでモデルチェンジを敢行。ここでは2014年式のメカニズムを解説する。
レースシーン最速のコンセプトはそのままに、市街地やワインディングロード、高速道路での扱いやすさを伸長させるべく、ストロークアップにより排気量を37㏄増量。この増量分を活かすべく、ピストンやコンロッド、カムシャフトを含むシリンダーヘッド、トランスミッション、吸排気系に及ぶまで、パワーソース全体が新設計となっている。
常用域のパワー&トルクが向上した新エンジンを搭載する車体は、従来型を踏襲しながらも、状況が刻々と変化する公道までカバーエリアを広げ、サーキットでもストリートでも高いパフォーマンスを発揮できるよう作り込まれている。これは排気量アップが、レースシーン最速の目標だけにとらわれないバイク作りへ影響しているためで、国内外のレースシーン向けには600㏄の専用モデルを受注生産。だからこそ実現した割り切りともいえる。車体の注目ポイントは、従来型をより進化させた次世代のフロントフォーク、SFF-BPを採用したことにある。ワインディングロードの走行に最適化されたショーワ製新型フロントフォークは、大径ダンパーピストンを用いることで、少ない減衰圧で同サイズのカートリッジ式フロントフォークと同等の減衰力を発生。とくにストローク初期の作動にすぐれ、車体の落ち着いた挙動と安定感に貢献している。アジャスト機構は、左側にプリロード、右側に伸び圧減衰と独立配置したことで、調整による明確さとクイックな調整作業を実現。フォークチューブを従来型より薄肉とすることで、220gの軽量化を達成。接地性や応答性の向上に貢献している。この新型フロントフォークに合わせ、リヤショックも設定変更。レイアウトは従来型を踏襲するも、スプリング長をより長く、バネレートは柔らかめに設定することで、主に快適性を向上させている。
新型エンジンと車体の特性を活かし、ライダーとの親和性を高めるべく採用されているのが、最新の電子制御技術である。Ninja ZX-10Rをもしのぐ(※当時)最新スペックの3モードKTRCは、必要最小限にスリップを許容しつつ長い加速状態を維持するためのS-KTRCと、ウェット路面などすべりやすい状態で機能するKTRCを組み合わせたもので、意図的なスリップなのか否かを把握、高速演算により理想的なスリップ率をフィードバックして最適なトラクションを確保するというスグレモノ。スーパースポーツ用KIBSとハイ/ロー2段階のパワーモードとの組み合わせにより、積極的かつ意のままに走りを楽しめるというわけだ。まるで最新多目的戦闘機のごとく最先端の技術が採用されている。これもZX-6Rの宿命なのかもしれない。
最先端の電子制御技術が走りの本質を変えた
軽快なハンドリングと高い路面追従性を見せる車体セッティングとしたZX-6R。ステムシールの低フリクション化など、細かな部分にまで手を加えているあたりに妥協なきバイク作りを垣間見る。そんな車体や排気量アップによって出力特性を向上させたエンジンを、より扱いやすいものとしているのが、ZX-10Rなどに先んじて投入される最新の電子制御技術である。
一般的にABSとトラクションコントロールは個別のECUにて制御されるもの。だがZX-6Rの場合はパワーモードとトラクションコントロール=KTRC、スポーツモデル専用ABS=KIBSを連携させて、ハイレベルな電子制御アシストを得られるようになっている。通常、これらを連動させるためには、データの元となるセンサー類を数多く搭載せねばならないのだが、重量増を嫌うスーパースポーツモデルゆえ、たとえばホイールのスピードセンサーをKTRCとABSで共用するなどして軽量化を図り、カワサキ独自のロジックとソフトウェアにより少ないセンサー数でも後輪のスピニング制御を効果的に行なっている。
この電子制御技術により、走りのなにが変わるのかといえば、路面状況に合わせてエキスパートライダーが行なっているようなスロットルワークをビギナーでも体感、活用できるということにある。つまり、路面状況の変化に対してナーバスになりすぎず、ZX-6Rの性能を存分に楽しめるというわけだ。
スタイル&装備
Ninja ZX-10Rを旗艦とするニンジャファミリーデザインを採用。従来型よりシャープなスタイリングをまとい、アグレッシブさを強調。人間工学にもとづくポジション関連の設定は従来型を踏襲するも、マシンコントロールに影響するシートやタンク形状は見直されている。ひと目で情報を把握しやすい新デザインメーターや新デザインバックミラーなどは、ストリートユースにおける安全性および安心感を高め、操る楽しさをサポートしてくれるはずだ。
パワーユニット
ドライバビリティの向上を目的に排気量アップが図られた新エンジン。数値にすれば37㏄と微小だが、これにともなうピストンやコンロッドデザインの変更、燃焼室形状の最適化、バルブやポートの見直しとカムシャフトのデザイン変更などが、エンジンパフォーマンスを大きく引き上げている。パワーグラフで言えば、とくに低中速回転域での盛り上がりが顕著であり、全体的に600㏄時代より低い回転数で同パワーを発揮するようになっている。
アシスト&スリッパークラッチを採用
レースの世界では当たり前の装備といわれているスリッパークラッチだが、ZX-6RではF・C・C製の新型アシスト&スリッパークラッチを採用。エンジンの通常回転時はアシストカムにより圧着の自己倍力作用が働くため、軽い操作性をもたらす低レートのスプリングを採用。過度なエンジンブレーキの発生時には、クラッチハブとオペレーティングプレートを引き離す機構が働き、バックトルクによる後輪のホッピングやスリップを抑制する。
シャーシ
アルミプレス成型のペリメターフレームやアルミダイキャスト製2ピースリヤフレーム、スイングアームなど、シャーシの基本構成は高バランスで定評のあった従来型を踏襲。キャスター角を24.0°→23.5°に変更、シャープかつ軽快なハンドリングとする。リヤショックのスプリングレート変更およびリンク比の変更に合わせ、フロントフォークを2㎜高く設定。ブリヂストンS20タイヤとの組み合わせで、軽快かつ安定性のある接地感を得る。
2014年モデル Ninja ZX-6Rの主なスペック
全長×全幅×全高 | 2,085×705×1,115(mm) | |
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軸間距離 | 1,395mm | |
最低地上高 | 130mm | |
シート高 | 830mm | |
ホイールトラベル | (F)120mm (R)134mm | |
キャスター/トレール | 23.5°/101mm | |
ハンドル切れ角(左/右) | 27°/27° | |
Fサスペンション | 41mm(倒立・トップアウトスプリング付) | |
Fブレーキ | デュアルディスク(外径310mm・5mm厚) セミフローティング・ペタルディスク |
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Rサスペンション | ボトムリンク ユニ・トラック (ガス封入式・トップアウトスプリング付) |
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Rブレーキ | シングルディスク(外径220mm・5mm厚) ペタルディスク |
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車両重量 | 192kg(ZX636E)、194kg(ZX636F) | |
エンジン | 水冷4ストローク 並列4気筒 DOHC4バルブ 636cm3 | |
ボア×ストローク | 67.0×45.1(mm) | |
圧縮比 | 12.9 | |
最高出力 | 96.4kW(131PS)/13,500rpm [95.0kW(129PS)/13,000rpm] 【78.2kW(106PS)/13,500rpm】 ラム加圧時 101kW(137PS)/13,500rpm (フランス仕様を除く) |
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最大トルク | 71.0N・m(7.2kgf・m)/11,500rpm [71.0N・m(7.2kgf・m)/11,500rpm] 【61.0N・m(6.2kgf・m)/10,800rpm】 |
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トランスミッション型式 | 常噛6段リターン | |
一次減速比 | 1.900(76/40) | |
ギヤレシオ | 1速 | 2.846(37/13) |
2速 | 2.200(33/15) | |
3速 | 1.850(37/20) | |
4速 | 1.600(32/20) | |
5速 | 1.421(27/19) | |
6速 | 1.300(26/20) | |
二次減速比 | 2.688(43/16) | |
燃料タンク容量 | 17L | |
タイヤサイズ | (F)120/70ZR17M/C(58W) (R)180/55ZR17M/C(73W) |
※無印は全仕様共通または欧州、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、インドネシア仕様 [ ]内は東南アジア仕様 【 】内はフランス仕様
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
http://ameblo.jp/kazu55z/
https://twitter.com/kazu55z