ヨシムラ
マシンを扱う緊張感が走る。2008年モデルのNinja ZX-10Rは、まさにこの言葉が似合う。そして、決まれば高い次元のコーナリングが可能。熟成を重ねたこのモデルには、進化した技術を自らの手でねじ伏せる楽しさが詰まっていた。
エキスパートを魅了するライダー本位の旋回性能
2004年のデビューから早5年、今年のモデルで3代めとなるNinja ZX-10R。今あらためて振り返ると、初期型と2代め、そして今回試乗した2008年式は、コンセプトこそ“サーキットナンバーワン”といったように共通だが、それぞれの性格に明確な違いが感じ取れる。初期型は、スロットルワークに対するエンジンの回転の付きがピーキーで、サスペンション設定も硬め。いわゆるとがったイメージそのものだった。対して2代めだが、エンジンの回転フィーリングが初期型よりマイルドに仕上げられていて、乗りやすさが増していた。スーパースポーツモデルでありながら、低回転域を多用する市街地でも扱いやすいエンジンとなっていた。懐が深くなったといったところだろう。そして、今回のNinja ZX-10Rは、印象としては初期型のイメージに近い。 2代めでやや丸くなった性格を、もう一度とがらせた感がある。当然ながら機能を熟成させてのことだ。とがっていながらも、安定指向な性格となっているのだ。
では、何をもってしてとがっているのか、そして、安定指向なのか。まずは車体から話を進めていこう。3代にわたるNinja ZX-10Rの進化の一つに、ディメンションの変更が挙げられる。そのディメンションに大きく影響しているのがヘッドパイプの位置。初期型から2代め、そして3代めにかけて、ヘッドパイプの位置を前に移動。同時にスイングアーム長も短く設定するなど、ディメンションを煮つめ、今回のモデルではホイールベースがグッと長くなり、直進安定性が増しているというわけだ。
ここで付け加えておきたいことがある。高速域では直進安定性と旋回性能は相反する傾向にあるということ。そう、アメリカンを思い浮かべてほしい。ホイールベースが長く、直進しているときはとても安定しているではないだろうか。その反面、高速域ではスーパースポーツモデルのようにクルクル旋回することは難しい。ただ、アメリカンならそれでも大きな問題はないだろうが、Ninja ZX-10Rは純然たるスーパースポーツモデル。旋回性能が落ちてしまっては都合が悪い。Ninja ZX-10Rは、このジレンマの対策への取り組みが行なわれ、安定指向にありながらも、ライダーが積極的に車体をコントロールすれば旋回させやすい仕上がりとなっている。どちらかといえば、車体まかせでコーナーのラインをトレースしていくのではなく、強制的に車体の方向を転回させていくといったイメージだ。そういった意味ではとがった性格の車体といえるが、決まれば2008年 Ninja ZX-10Rはこの旋回方法を高次元で可能としている。いうなれば、曲げやすい車体なのである。
この効果は、一つにサスペンション性能の恩恵にある。硬めの設定となっているサスペンションは、コーナリング時に高荷重をかけても、必要以上にストロークすることなく、適度に荷重を吸収してくれる。だから、ハイスピードのコーナリングもライダー本位でクリアできるというわけだ。高速レンジのコーナリングを繰り返してもヘタりずらいサスペンションで、かつ市街地ではクイックな旋回をもたらしてくれる。このサスペンション性能は大きな進化といえるだろう。