ヨシムラ
レトロなスタイルを持ったバイクって実は雰囲気だけなのか。1992年の発売以来細部の変更はあるものの、その根本を継続してきたロングセラーモデル。インジェクション化された2008年モデルの本質にせまる。
率直なハンドリングは永遠に不滅である
エストレヤの古典的なスタイルには、やはり空冷4サイクル単気筒エンジンがぴったり。エストレヤのように、このクラスでもきちんと生き残っているフルサイズの空冷単気筒250㏄ロードスポーツは数少ない。
レトロ系スタイルという枠を超えて頑固に作り続けているカワサキの姿勢は立派だ。めまぐるしく変化し続ける時代だからこそ、変わらぬ姿があっぱれである。スペイン語で星を意味するエストレヤの型式はBJ。BJのJという文字はジュエル、つまり輝き続ける宝石を意味する。
そんなエストレヤがいよいよインジェクション化された。クリーンな排気ガスのためには欠かせないものだ。丸みのあるティアドロップ型タンクの雰囲気を壊さないようにインジェクションボディをうまく隠しているから違和感はない。エンジン造形も均整が取れているし、金属の塊でできていることを実感させるアルミのクランクケースとシリンダーがどの角度から見ても美しい。
古典的なスタイルのエストレヤだが、まず高く評価したいことが操縦性だ。素直という言葉をこれほど忠実に守り切れているバイクはそうざらにはない。敏感すぎず、鈍感すぎず。ライダーの能力に見合った操縦性の発揮、というバイクに欠かせない命題を実現している。
レトロ系バイクといえども現実の交通事情に適応するためにはきちんと走って、曲がって、止まらなければならない。おおげさにいえばスポーツバイクとしての視点にも耐えられる作り込みともいえる。なぜならライダーの感性を刺激するスポーツバイクの本質をエストレヤは持っているからだ。
想像以上に曲がって、思っている以上に速く走れてしまうバイクが、たとえスーパースポーツのスタイルをしていても正しいスポーツバイクとは呼べない。対するエストレヤはスポーツバイクだ。
エンジンはインジェクション化によって、始動性が確実にアップしているし、低速から高回転までさらにスムーズな吹け上がりを獲得。中速域の充実によって実質的には気持ちよい走りになった。
DOHCのように回るわけではないが、いつも安心感を持って走ることができ、ときにハードな走りを楽しんでも意外にエンジンと車体のバランスをくずすことはない。メカニカルノイズも少なめで単気筒らしい鼓動感が際だってくるのだ。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
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