ヨシムラ
レーサーレプリカ群に対して、はたして空冷ネイキッドの元祖であるゼファーは単純にアップライトなポジションの低パワーバイクだったのだろうか。ゼファーχになって乗り込むほどに、その重要な本質が見えてきた。
決して退屈しない。ほどよく敏感な味付け
エンジンを始動してまずはおどろいてしまった。空冷4気筒エンジンでこれほど静かなものはない! まるで水冷エンジンか。いや、水冷よりも静かなのでは?と思うほどだ。
この静粛性は、かつてのカワサキでは考えられなかったことだが、これはそのままカワサキのゼファーにかける情熱にほかならない。エンジンという機械に対する思い入れが強いからこそ、ここまでやったのだと。高い信頼性を誇るひとつの証明方法がこれなのだと。さらにおどろくことに相当な高回転をキープし続けた直後でもエンジンは静粛性をたもっていた。空冷の熱ひずみを考えても、これはすごいことだ。
ゼファーは4バルブのゼファーχになってからエンジンの伸びやレスポンスアップだけでなく、音という側面でも確実な進化熟成を進めてきたことになる。
エンジンだけではない。前後サスペンションの設定も絶妙で、2バルブ時代のスロットルに敏感に反応するフロントフォークではなく、4バルブのゼファーχは動きのよさをそのままに、一定のマナーが加わった。中間付近からボトムまでの減衰が明確に表れてきて、姿勢変化をあまり意識せずにコーナリングに専念できるようになった。
しかも、前後タイヤの接地感はしっかりと確保され、旋回力という意味ではクラストップの実力を持つといっても過言ではない。積極的に舵角がつく味付けなのだ。それでいてバンク中の落ち着きがあるから、バンク角の特定がやりやすい。つまり、ねらったラインのトレースだけでなく、意図的にラインを変えるときの自由度が高いともいえるのだ。しかも、車体の軽快感も4気筒400㏄中、トップレベルにある。これは、重心が低い味付けなのである。
ステア操作はできるだけ腕力でこじらずに、バイクの傾斜による舵角で曲がるのが自然かつ安全。しかも、これが疲れずに速い。
速さといえばエンジン出力の絶対的なレベルではやはり水冷エンジン群に一歩ゆずるかもしれない。とくにレッドゾーンの手前よりも早めにシフトアップした方がスピードのノリがいい。排気ガス規制をクリアするためのセッティングでは仕方がない部分ではある。しかし、それでも中高回転の伸び感はなかなか楽しい。
8,000rpm前後でのレスポンスと押し出しの強さがとりわけ美味だ。この回転域付近をキープしながら、タイトコーナーではリーンアウト優先で操作してやれば思いのほかクイックに旋回を終了してくれる。
操舵レスポンスの速さ、つまり車体剛性をたくみに曲がりやすい方向に設定しているし、エンジンの特性とも絶妙にバランスさせている。
かつてテイスト重視の400㏄として認識されたであろうゼファーも、4バルブ式のゼファーχではスポーツバイクとしてのスタンスを十分に見せつけている。同じ400㏄のZRXよりもひとまわりコンパクトな操作感・車体感覚に感じられる。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
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