ヨシムラ
2000年、新しい時代に突入した。その突破口を切り開いた第一弾のモデルがZX-12Rといえるだろう。スタイル、走行性能ともに、とがった過激なイメージを持っての登場だった。その印象は、今もなお健在だ。
低回転からの鋭い加速力で、瞬く間に到達する最高速度の領域
昔の話になってしまうが、Z1やGPZ900R、そしてZZR1100といったように、カワサキはいつも運動性能に特化したバイクを出してきた。どこか無骨で、それでいて圧倒的な運動性能を発揮する。それが、カワサキフラッグシップのイメージともいえる。そして、2000年に入ると同時に、これらのモデルの存在と比較しても引けを取らないモデルが登場した。それがZX-12Rだ。パワー、スピード、スタイリング、緊張感、そのどれをとってもカワサキのフラッグシップのイメージにドンピシャと当てはまっていた。最強カワサキの復活といったところだろう。現役時代はカワサキのフラッグシップを堂々とになうモデルだったということは間違いない。
そういえば、僕が初めてコイツと出会ったときのことを思い出す。あれは2000年だった。「うわぁ〜、こりゃ、すっげ〜バイクだなぁ」。抽象的だが、素直にこう思えた。空力を意識したせいか流線形なスタイリングでありながら、とがったイメージを持った独特のフォルム。乗ってみれば、低速からスルスルスル…、とスタートして、どこまでも加速していきそうな強烈なパワー感。僕はこのバイクにすっかり魅了されてしまった。それゆえ、すぐに2000年式のZX-12Rを個人的に買ったね。その後は、街乗りからレースでも使ったという入れ込みようだった。
あと、僕自身はマフラーの開発もしていて、オフィスが神奈川県横浜市にあるけれど、工場は三重県鈴鹿市にあるため、どうしても東名高速道路を使っての移動も多くなる。で、ZX-12R用のマフラーを開発していたときは、実際このバイクに乗ってオフィスと工場を行き来してたものだ。まぁ、片道300km以上の距離だが、実に気持ちよく高速クルージングできた。レース、街中、マフラー開発といったように、僕のZX-12Rは大活躍だった。
過激なパワーと加速力。艦の称号がここにある
ZX-12Rには、カワサキのチャレンジスピリッツを感じていた。それはモノコックフレームなどの機能。フレームのなかにラムエア通路を設けるという新しいシステムをカワサキは持ち込んできた。こういった新しいことへのチャレンジもシッカリと受け継がれていた。本来のエンジン性能に追加してラムエアの効果もあって、高速域での加速感は当時にしてみればすばらしいのひとこと。サーキットでの話になるが、300km/hの速度域がアッという間にやってくる。そして、僕のバイクで試してみたところ、340km/hのフルスケールメーターを振り切る勢いで、アッという間にメーターの針が回転した。これは感動ものだったね。それに、タコメーターだが、1,200ccクラスのバイクにもかかわらず、レッドゾーンまですばやく実にキレイに到達する。それだけ、エンジンがよく回るということだ。
一方、低回転域だが、この域でも加速感はある。スロットルの開閉に応じて敏感にエンジンが反応する。この特性がもっとも顕著に現れていたのが、初期型の2000年式だ。スロットルの開閉に対してエンジンの回転がとても敏感に反応して、極端な話、かなり乗りなれた人でないと完璧に乗りこなすのが難しいくらい。ただし、2001年式、2002年式とマイルドに変化していっている。これはマシン性能の進化の一つで、インジェクションの改良などによる効果だろう。とはいっても、加速感が鈍くなっていったのかというと、決してそんなことはなく、低回転から高回転までシャープで一気に加速する感覚は残されている。実際、今回試乗した2002年式モデルでも、パワーと加速感は健在だった。
エンジンで、もう一つほめるべき点がある。それは、エンジンブレーキがフレキシブルに効いてくれるということ。スロットルを戻したときに、ガツンとエンジンブレーキが効くのではなく、かといってまったく効かないわけでもない。エンジンブレーキが効きすぎると、ともすればホッピングやタイヤのロックなどが起こる場合もある。ただし、ZX-12Rの場合、アクセルを全閉にしたときも、リヤホイールが引っ張られるような感覚が少ない。これはおそらくインジェクションによる恩恵で、こういった点でも当時の技術陣のこだわりが感じられる。
車体は、2002年モデルで大きな改良があった。2001年モデルまでは、コーナー手前でハードブレーキングしながら1次旋回に移っていくとき、エンジンがほんとにごくわずかだが揺れる感触があって、やや安定感に欠けていたところもあった。ただ、2002年モデルでは、その感触は消え、車体に関しては安定志向になったのではないだろうか。また、ブレーキをかけたときの車体だが、フロントフォークがシッカリと踏んばってくれて、安定感は悪くない。
とにかく、ZX-12Rを表現するならば、パワーと加速感に尽きるのではないだろうか。それこそアクセル開度10%くらいでも、体が置いていかれる感覚さえある。だからこそ、タイヤが冷えているときなどの走り始めには気を付けてほしい。油断すると、スリップダウンなんてことにもなりかねない。まぁ、それだけコイツはとがっているということだ。
2002年モデル ZX-12Rの主なスペック
全長×全幅×全高 | 2,080×725×1,185(mm) |
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軸間距離 | 1,440mm |
シート高 | 810mm |
乾燥重量 | 210kg |
エンジン | 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒・1,199cc |
ボア×ストローク | 83×55.4(mm) |
最高出力 | 178ps/10,500rpm・190ps/10,500rpm(ラムエア加圧時) |
最大トルク | 13.6kg-m/7,500rpm |
燃料タンク容量 | 20ℓ |
タイヤサイズ | (F)120/70-17(R)200/50-17 |
インプレッションライダー:鶴田竜二
1984年にレースデビュー。1990年に国際A級に昇格し、同年TT-F3クラスを駆りチャンピオンに輝いた。以降鈴鹿8耐や全日本ロードレースで活躍する。2001年にはトリックスターブランドを立ち上げ、オリジナルパーツを積極的に展開。現在は愛知県三河地方を広くカバーするバイク販売店の代表として忙しい日々を送る。
https://www.trickstar.jp