ヨシムラ
共通する気持ちよさと単車らしさ
カワサキのフラッグシップネイキッドの変遷を振り返るにあたり、その背景に注目すると、至って現実的な面を避けて通れない。なぜ、新型に更新していかなければならなかったのか。それは、きびしくなる騒音排ガス規制に対処できず、エンジンを新しくしなければならなかったという現実があったのだ。でなかったら、これらはすべて今もラインアップされていて不思議ではない。
しかし、カワサキはただ規制に合致させるためだけに、新型車を生み出してきたわけではない。
エンジンの特質を鑑み、それを活かす方向でのパッケージングを追求するとともに、カワサキファンが求める方向と照らし合わせ、そして、ライバル車に対しカワサキらしい優位性を築けるように進めてきたのだと思えてならない。
ZEPHYR Series:目指すはバイクの原点
1989年に登場したゼファーは、人々が食傷気味になっていたレーサーレプリカに対するアンチテーゼでもあった。それで誰もが“バイクってこれでいいのだ”と思ったに違いない。ともかく、人気にも押されゼファー750、ゼファー1100と矢継ぎ早にシリーズが充実していった。
ゼファーのゼファーたるは、空冷2バルブエンジンにあると思う(ゼファーχという例外はあるが)。空冷エンジンには機能美があり、軽量でとくにヘッドまわりが軽くなる。見ためのオーソドックスさと、低重心によるどっしりした安定感と安心感がゼファーに合っている。また、2バルブであることも軽量化と低重心化に貢献している。エンジン特性も低中回転域向きとなってゼファー向きだ。
ZRX1200DAEG:完成度を高めたZRXシリーズ最終章
ただ、エンジンがGPZ900Rをルーツとする水冷4バルブのZRXシリーズになると、言うまでもなく高性能で、空冷機と比べたら重心も高くなりがちだ。ダイナミックに運動性能を引き出していくのが然るべき方向で、それが走り屋向きでもある。
そんなわけで、ダブルクレードルフレームには十分に剛性が与えられ、ホイールベースもビッグネイキッドとしてかなり短くされた。それでいて、リヤショックはツインショックとして、伝統的なスタイルにもこだわった。ファンの伝統を重視する指向にこたえたこともあるのだろう。
その結果、走りはスーパースポーツの片鱗を見せる一方で、駆るときのマシンの存在感を実感させるものとなっていた。
Z900RS:見た目のレトロな印象も走りと技術は今日的
そして、現行車のZ900RSである。エンジンはZRX1200ダエグのZRXシリーズと同じ水冷4バルブだが、軽量コンパクト、排気量も900ccとされ、パッケージングとしてもバランスが追求されている。
トラスタイプのフレームによって軽量化も推進され、車重はZRX1200ダエグよりも30kgも軽量である。リヤショックをリンク式モノショックとして、ハンドリングを高次元化。フロントフォークも倒立タイプである。
やはり、走りは現代的でスポーティだ。誰もが違和感なく、そうした素性の恩恵に預かることができる。それでいて、スタイリングはいい意味でレトロ調だ。走りにもトラディショナルなコントロール感と操るよろこびが作り込まれている。
思えば、ゼファー誕生からここまでざっと30年。昔のバイクはよかったと言う人はいよう。だが、ここまで本質を変えずに、カワサキの情熱によって技術的に進化してきたことを考えれば、新しいモノがすばらしいことは、紛れもない事実なのである。
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。