ヨシムラ
“すべてを超える”というコンセプトのもと、生まれてきた新型ニンジャH2カーボン。それは“従来型のすべてを超える”という意味のみならず、“既存車のすべてを超える”ということであると実感させられた。
正常進化を超えた革新形を思わせる
新しいニンジャH2カーボンへの試乗は、快適な気候を期待できる標高の高い山間部のワインディングで行なうはずであった。しかし、当地は不順な天候と濃霧で路面は濡れたままという悪条件とあいなった。
乗るのはスーパーチャージドエンジン搭載のハイパーマシンだ。そればかりか、タイヤは溝の少ないスポーツタイヤである。昨今のタイヤはウェット性能も高いとわかってはいるが、昔のタイヤを知る身はどうしてもナーバスになってしまう。
でも、このニンジャH2カーボンは、これがまさに今日的なスポーツバイクであると言わんがばかりに、普通に楽しくワインディングを走ることを可能としてくれたのである。
印象的なのが、エンジンの扱いやすさである。2015年式の初代型とて、スーパーチャージャーからイメージされる唐突さはなく、普通に扱えるものだったのだが、この変貌ぶりからすると、初代型には開け始めやトルクの出方にパンチ過多という面もあったと言わざるを得ない。とにかく、セミウェットの路面でも気負うことなく走れるのだ。
ここで思い出したのが、昨年に登場した高速スポーツツアラーのニンジャH2 SXである。そのモデルのスロットルレスポンスやトルクの立ち上がり特性の寛容さを彷彿とさせているのだ。そして、それは最高出力を抑えたことで得られたのではないかと思っていたものである。だが、こいつは従来のニンジャH2から15%も高出力なのにも関わらず、ニンジャH2 SXに匹敵する扱いやすさを備えている。
聞けばニンジャH2 SXの技術をフィードバックし、吸気系パーツにも同一品を使用しているとのことだ。乗った印象からすると、制御マップの変更というよりも、制御ソフトそのものの改良を思わせる。それほどまでに進歩がすばらしいのだ。
そればかりか、車体からのフィーリングも好印象である。とくにハンドリングに貢献しているのが、従来型のRS10からRS11に更新されたブリヂストンタイヤであろう。
私がRS11を試すのは今回が初めてで、当然、RS10と比較したわけでもない。が、昨今のタイヤの進化の傾向として、サーキット性能のみならず、一般道でのハンドリングやウェット性能の向上で、ワイドレンジされており、このRS11もその例に漏れないはずである。
おかげで、ステアリング感覚にダイレクト感とキビキビ感があり、楽しく走れる。また、溝がショルダー部まで刻まれるようになったことも、今回の悪条件下での走りを助けてくれていたのかもしれない。
ブレンボの最高峰キャリパーが装備されたフロントブレーキも、従来にも増して、忠実に扱えるものとなっている。濡れた路面でも唐突さなど一切ないのだ。カワサキの技術の進歩にまたしても感心させられることになったニンジャH2カーボンへの試乗であった。
大刷新されたスーパーチャージャー
ニンジャH2カーボンは量産市販車として最高となる231psを発揮。従来型の200psからピーク域に上乗せしたような出力特性で、常用域をスポイルさせることなく、燃費性能を同等としながら、試乗記本文にあるように扱いやすさを格段に向上させている。そのため、ニンジャH2 SXの技術を活かし、燃焼効率を追求したことでインタークーラーの廃止をも実現。エアフィルター、インテークチャンバー、スパークプラグもニンジャH2 SXと共通としている。
Ninja H2 CARBONの主なスペック
全長×全幅×全高 | 2,085×770×1,125(mm) |
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軸間距離 | 1,455mm |
シート高 | 825mm |
車両重量 | 238kg |
エンジン型式・排気量 | 水冷4ストローク DOHC 4バルブ 並列4気筒・998cm3 |
最高出力 | 170kW(231ps)/11,500rpm |
最大トルク | 141N・m(14.4kgf・m)/11,000rpm |
燃料タンク容量 | 17ℓ |
タイヤサイズ | (F)120/70-17・(R)200/55-17 |
本体価格 | 363万円(税10%込) |
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。