Ninja ZX-14R vs Ninja H2。プロが語る2車種の個性

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ヨシムラ

カワサキには最強と形容するにふさわしいモデルが2機種存在する。Ninja ZX-14RとNinja H2だ。ともに200psを発揮し、怒涛のトルク感を違った方法で実現している。でも、両者の走りは驚くほど異質なのである。

ともに最強最速にしてキャラクターは対照的

カワサキ車には、デカくて存在感にあふれ、最強にして最速とのイメージがある。だから、カワサキのフラッグシップモデルにはそうした個性が、他のどんなモデルよりも強烈に放たれていなければならない。

Ninja ZX-14RとNinja H2は、ともに200psを発揮するハイパーぶりである。ただ、200psという最高出力そのものは、Ninja ZX-10Rも含め、多くのリッタースーパースポーツが達成していることも確かだ。

とはいえ、Ninja ZX-14Rの1,441ccという排気量は、スポーツバイクとしては文句なしに世界最大級だ。そして、リッタークラスでは達成できない豊かなトルク感と、スポーツとして楽しめる大きさの車体との組み合わせが、独自の世界観を主張している。

片やNinja H2は、排気量こそ998ccでも、スーパーチャージャーによって怒涛のトルクが全域で発揮され、純粋なスーパースポーツほどではないにしろ、ピュアスポーツとして楽しめるものとなっている。

もちろん両者は、存在感に関してもインパクトがある。となれば、ともにフラッグシップの二枚看板となってよさそうなものである。

でも、はっきり言えるのは、両者のキャラクターはあまりにも対照的であることだ。どちらがフラッグシップなのか、それとも両方がフラッグシップなのか。つまるところ、どちらのキャラクターをカワサキらしいとするのかということにつながる。

2017年モデル Ninja ZX-14R

Ninja ZX-14R ABS High Grade(2017年モデル)

2017年モデル Ninja H2

Ninja H2(2017年モデル)

Ninja ZX-14Rを寛大とするならNinja H2は究極の先鋭形か

まずはNinja ZX-14Rで走り出す。車体がデカくても、持て余さないパッケージングに改めて感心。走り出せば重さを感じることはなく、タイトなところでも、車体の大きさのことは忘れてしまう。そうしてリズムに乗ってくると、周囲の自然を満喫している自分と、スポーツライディングを楽しんでいる自分が混在していることに気が付く。

2017年モデル Ninja ZX-14R 試乗インプレッション

Ninja ZX-14Rはコーナーを攻める気にさせてくれ、操作に応えてもくれる。でも、あくまでもジェントルで優雅な走りをモットーとし、豊かさを満喫させてくれる

スポーツツアラーらしい優雅な立ち振る舞いは、このNinja ZX-14Rだけの世界ではないかと思う。ライディングポジションはアップライトで窮屈さはなく、サスペンションの動きも姿勢変化を優雅に感じ、余裕の上質感を高めてくれる。一方で、コーナーを気持ちよく決めてみるかとの気にもさせられる。そうしたチャレンジを許してくれるし、それがまた爽快で、スポーツ心を高揚させる。

では、その両者のどちらに重きが置かれているのか。それは紛れもなく前者の優雅さだろう。

両者のバランスは、Ninja ZX-14Rの作り込みにおいて苦労された部分ではなかろうか。コーナーを攻めていくと、車体はさりげなくヨレて、限界を教えてくれる。「いたずらに熱くなるんじゃなく、こいつにはもっと楽しみ方があるだろ」と諭してもくれる。もし、コーナリング性能だけに照準を当ててしまったら、このような優雅さは期待すべくもない。

エンジンも、中回転域でトルクが優しく沸いてきて、リッタースポーツにはない底力だ。それにしても、スロットルワークに唐突さのない扱いやすさは、すばらしい。

Ninja H2は究極のスポーツバイク

Ninja ZX-14Rの優雅さを満喫したところで、Ninja H2に乗り換える。

周囲の環境を満喫しながら、気が向けばスポーツできるNinja ZX-14Rに対し、Ninja H2は常にスポーツモードで集中しないといけない。分かっていたつもりでも、ここまでキャラクターが対照的とは…。とにかく、自身のモードとリズムを変えないといけない。迫り来るコーナーに向けて集中し、やるべきことを確実にこなしていく。ライディングポジションは適度に前傾し、旋回性を積極的に引き出していく。サスペンションも荷重変化にしっかり踏ん張る設定で、Ninja ZX-14Rよりも格段にシャープに曲がっていく。

2017年モデル Ninja H2 試乗インプレッション

Ninja ZX-14Rの走りと比べると大差がないようにも見えるが、乗っている本人にとっては、全く異次元の感覚。前方に体重移動し、積極的に曲げて旋回性を引き出していく

同じピュアスポーツでも、スーパースポーツだと少々手を抜いてもそれなりに走れる。でも、Ninja H2は乗り手への依存度が高く、生半可な気持ちでは楽しめない。速く走れるレーシングマシン路線のスーパースポーツに対し、Ninja H2は速さよりも操ることを濃厚に楽しめるフェラーリに近い存在を思わせる。

それでも、低回転域から使えるエンジンは、公道を前提にした特性だ。Ninja ZX-14R同様、スーパースポーツよりも1速か2速上のギヤでコーナーをこなせる。が、Ninja ZX-14Rよりも1速下ギヤにしないといけないと思いきや、スロットルオンで大きくトルクが沸いてくるようで、コーナーによっては逆に上のギヤで走れたりもする。

やはり、この公道での存在感からして、Ninja ZX-14RとNinja H2はフラッグシップに相応しい。そして、Ninja H2のキャラクターがNinja ZX-14Rと対照的であるのは、フラッグシップ格となろうモデルを登場させるに当たって、カワサキが意図したことでもあるに違いない。

ただ、今回の試乗を通じて私は、Ninja ZX-14Rこそがカワサキのフラッグシップとの想いを新たにしている。“使える”、つまり実用に供することを前提としたうえで、強さと速さ、存在感を放っていることがカワサキらしさと考えるからだ。過去の名車を振り返れば、そのことも明らかというものである。その意味でNinja H2は、主流となるNinja ZX-14Rの存在があるからこそ、生まれてきた究極形としていいのかもしれない。

ライディングポジション

Ninja ZX-14Rはアップライトで余裕を感じさせるが、コーナーをこなせるスポーティさも感じさせる。Ninja H2は純粋なスーパースポーツよりもゆったりしているが、スポーツすることを前提としている。(身長:161cm 体重:57kg)

2017年モデル Ninja ZX-14R 足着き

Ninja ZX-14R

2017年モデル Ninja H2 足着き

Ninja H2

和歌山’s POINT[Ninja ZX-14R]

ラグジュアリーなスポーツツアラー

2017年モデル Ninja ZX-14R 試乗インプレッション

最初は巨体から威圧感を受けても、馴染むうちに親しみが沸いてきて、さらにスポーツする気にもさせてくれる。スポーツツアラーであることを最初に印象付けても、意外や普通に使えて、ラグジュアリーツアラーの気分で遠くに足を伸ばすこともできると言ってもいい。1,441ccの圧巻のトルク感を楽しみながらも、それは扱いやすく優しさに満ちていて、スポーティにコーナーを攻めてみたくもなる。これはZX-14Rだけの世界である。

和歌山’s POINT[Ninja H2]

2017年モデル Ninja H2 試乗インプレッション

乗り手次第の究極形スポーツ

リッタースーパースポーツと比較すると、ライディングポジションはやや快適指向だ。ハンドリングはそれほどに軽快で俊敏ではないものの、ほぼ同じ感覚でマシンコントロールを楽しめる。だが、どこからでもスロットルを開けただけ、欲しいトルクを取り出すことができ、それをいかに取り出すかはライダーに委ねられる。ハンドリングも含め、ライダーへの依存度が高く、その意味で、究極のスポーツバイクを思わせる。

Ninja ZX-14R vs Ninja H2。プロが語る2車種の個性

試乗では幾度となく両車を乗り換えた。Ninja ZX-14RからNinja H2も乗り換えるとテンションを高めざるを得ないのに対し、Ninja H2の後でNinja ZX-14Rに乗ると頑張らなくていいとさとされる。それがどちらも新鮮だった

和歌山 利宏

バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。




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