すぐれた走りは車体とエンジンだけではできない。前後サスペンション、ホイールとタイヤ、ブレーキ、タンク、シート、電装など実に多岐にわたるが、すべてはまとめる技術に集約にされる。
KLX230/R開発者インタビュー
あえて250ではなく230にこだわった
今回のインプレッションは、カワサキが主催する試乗会で行なった。試乗会には3人の開発者も同席していたので、KLX230/230Rに関しての詳細をうかがった ※右:エンジン設計担当/城﨑孝浩氏 中:開発リーダー/和田浩行氏 左:デザイン担当/小林 稔氏
KBM:まずは、KLX230/KLX230Rの開発のねらいは?
PL(開発リーダー):軽量&パワフルで誰もがオフロードライディングを楽しめることです。そのためにエンジンもフレームも、KXL150よりひとつ上のクラスとしてベストな排気量は何か。そこからスタートしました。想定しているシーンは、KLX230は通勤、ツーリングから林道ツーリングや専用コースでのファンライド。KLX230Rは専用コースで中級ライダーまで存分に楽しめる作りです。
DE(デザイナー):デザインのキーワードはカワサキらしくアグレッシブで新鮮であること。カワサキのアイコンともいえるシュラウド、サイドカバーが一体になってライダーが動きやすいこともデザインとして取り入れています。アジア市場では大きく堂々としていることが重要で、サスが長く、ライトまわりも大きいこと。もちろんその前提として実際の機能がリンクしていることです。
EG(エンジン設計者):DOHC4バルブのKLX250は高回転まで回しきれるライダーならパワー的に魅力がありますが、この230なら車体もコンパクトにできるため、多くの初級中級ライダーがエンジンのパワーを存分に引き出せる。KLX230Rは専用コースでファンライドを楽しむためにタフであること。重量アップを承知でエンジンの発熱容量を限界まで確保しています。
PL:それでも″エンジンを軽くして!”と厳しいオーダーを出しました(笑)。グラム単位の攻防という意味でもKLX250以上にシビアな作りとしています。純粋にレーサーとしてトコトン作り込んでから保安部品をつけたのがKLX230です。
KBM:ということはKLX230で公道を幅広く楽しんで、必要となれば保安部品を外してレーサーとして楽しむこともできるということですね。実際に走ってヘッドまわりが軽く、車体とエンジンの一体感が抜群と思いました。しかもクラッチフィール、シフトフィールなど重要なところでこそ信頼の作りを実際に感じ取ることができました。
PL:あえてエンジンが231ccというピュアな発想から本物のオフを作り上げました。多くの人にどんどん乗っていただきたいです!
車体[CHASSIS]
モトクロスシーンで長年培ってきたカワサキ独自のペリメター式フレームを採用する。ライダーが自在な操縦ができるよう乗車位置設定と、前後サスペンションがねらいどおりの作動をするように適切な強度と剛性バランスを確保しながら、前後の重量配分とディメンションと重心位置を設定している。大きく堂々とした外観のKLX250のフレームと比較して形状は大きく異なり、230ccのエンジンサイズに見合った専用フレームはさらにシンプル&コンパクトな設計となっている。
DOHC4バルブ式エンジンを搭載するとピークパワーで有利になるが、シリンダーヘッド周辺のスペース確保のため車体は大きく重心位置も上がる。OHC2バルブだからできたコンパクトフレームだ
KLX230R
KLX230
KLX230Rは240mm径ディスクローター+2ピストンキャリパーをセット。KLX230は重量増・高速走行に合わせた265mm系のディスクローター+2ピストンキャリパー。ボッシュと共同開発したデュアルパーパスABSを装備する
KLX230R
KLX230
KLX250とは形状が明らかに異なるニューユニトラック式サスペンション採用したスイングアーム。KLX230Rはアルミ製で、リヤアクスル処理も専用。KLX230はスチール製スイングアーム
ステアリングヘッドからスイングアームピボットまで直線的に結ぶペリメターフレーム。剛性と強度確保のためにダウンチューブを持つシングルクレードル型。基本構造はKLX230とKLX230Rは同じ
ホイールはKLX230/230Rともにアルミ製スポークホイールを使用する。タイヤはKLX230がIRCで、KLX230Rはダンロップを採用している
KLX230は37mm径、ストローク220mmのフロントフォーク前部にABS用パーツカバー。リヤショックは223mmのストローク長。スチール製。プリロード調整可となっている
正立タイプを採用することでライダーの手にかかる負担を軽減したKLX230R用のフロントフォーク。インナー径φ37mmで250mmのストロークを確保。リヤショックは窒素ガス封入式。251mmのストロークを持ち、プリロード調整が可能
装備[EQUIPMENT]
細部に至る煮詰めひとつで信頼性、扱いやすさは大きく変わる。瞬時に的確な判断と操作ができる作り込みが欠かせない。230という初級・中級向けの排気量ながら、レーサーKLX230Rの本格的なまとめ方をベースにしただけに、公道を走るKLX230は隙のない完成度を見せている。
アジア市場は、ライト系はコンパクトなモノより大型を好むという。60/55Wのハロゲンライトの汎用性も重要な装備のひとつ。外観はシャープなデザインとなっている
かつてケースに入れた工具をシート上などに設置していることが多かった。KLX230は、イグニッションキーで簡単に着脱できる左サイドカバー内に工具とバッテリーを配置する
KXシリーズの彷彿とさせる、シャープなラジエターシュラウド。非常に動きやすく、タンクサイドからそのままシートサイドまで一体化したロングシュラウド型となっている
KLX230装備のヘルメットホルダーはもちろん必需品。国内仕様専用の装備だ。取り付け位置や角度が良好で扱いやすさが光る。軽量な荷物用フックとしても使える
国内仕様のウインカーはシャープなデザインを採用する。前後左右どこからでもよく見える大きめサイズで明るい。いつでもどこでも電球が手に入る一般的なバルブを採用
レーサーKLX230Rのハンドルまわりには、グリップ右側に黒いボタンのセルスタータースイッチがセットされ、グリップ左側に赤いボタンのキルスイッチセット。いずれも押し間違えない形状と色としている
KLX230R
KLX230
KLX230とKLX230Rは、それぞれシート形状と素材が異なる。公道用のKLX230はKLX230Rより幅広となっていて、ウレタンはKLX230Rのほうが密度が高く、座った感じが硬い
KLX230R
KLX230
KLX230のタンク容量は7.4ℓ。上下で別々の部材を溶接して容量を稼いだ。KLX230Rの樹脂製タンク容量は6.5ℓ。いずれもファンライドには十分な容量を確保
パワーユニット[POWER UNIT]
北米の広大なエリアで存分にフリーライドでき、アジアでもストリートから競技まで幅広く支持され、長く排気ガス規制にも対応できる信頼のエンジンとして生まれた空冷OHC2バルブ単気筒231ccの新作。最高出力主義ではなく、実用性・耐久性に優先によるしたたかな強さが実質的な速さと楽しさを生むと定義したエンジンだ。
排気量231ccに対して余裕のシリンダーフィンサイズ。熱的に苦しいことはすべてにマイナス。だがプロジェクトリーダーは“軽量化!”を主張。対するエンジン担当は“信頼性!”。やりとりは相当だったらしい
アジア市場で大人気のKLX150のステップアップ用として登場したKLX230。パワーと回転数のグラフで、その性能差は歴然としている。リニアに立ち上がる滑らかなパワーカーブが乗りやすさを支えるキーポイント
厳しい排出ガス規制ユーロ5をクリアするために避けて通れないのがガソリンの蒸発問題。キャニスターをシュラウド内のセットし、スマートな仕上がり
KLX230R
KLX230
右が火傷防止のカバーを持つKLX230のマフラー。左はコンパクト&軽量なKLX230Rのマフラー。いずれも穏やかな音色と音量で心地よい走りを支える