ヨシムラ
カワサキから待望のオフロードバイクが登場した。それも公道走行用KLX230とレーサーKLX230Rという2本立てだ。水冷DOHCのKLX250に続くネクストモデルはいつ? どんな風に変わるの?と思っていたら、排気量が230cc。なんで? 走り味は?と期待がどんどん膨らんできたところでの待望の試乗となった!
見た瞬間にイケる!と直感。期待は裏切らなかった!
KLX230を前にした瞬間に私はシリンダーフィンやクランクケースサイズに目がいった。空冷OHC2バルブと232ccの排気量も想定利用者の使用実態と軽量性、整備性まで配慮したもの。日本固有の250ccという枠を外し、純粋にオフロードを楽しむ排気量のひとつが230ccという想定である。かつての他社225や230はクランクが125ccベースとなっている。物理的耐久限界として両車は奇しくも同じ223ccである。125ccベースはクランクケースが小さく、車体の軽量コンパクト化が可能だ。そのうえ、200cc以上ならパワーも楽しめる。しかし、全開連続走行の耐久性にはクランクケースは230cc専用設計が絶対不可欠となる。でも250ccでは重く大きくなる。KLX230はこの現実を見据えて生まれたのだ。
パワー&バランスでサラリと速いKLX
レーサーのKLX230Rが基本形として開発された。完成度を煮詰めてから公道走行用のKLX230をまとめたという。まずはKLX230Rから試乗した。車体はコンパクトだがポジション的に身長180cmの私でも窮屈感がないハンドル幅、ハンドルまでの距離、膝の曲がり角、スタンディング時の大きな動きもまさにモトクロッサーKXシリーズのそれだ。カワサキのアイコンともいうべきシュラウド、シート、サイドカバーの継ぎ目がないロングシュラウドが功を奏している。
KLX230Rは低回転からリニアにパワーが盛り上がり、クラッチのつながりがわかりやすく、滑りやすい急な上り斜面での再スタートもイージーだ。中速域ではスイスイ前に進むハイトラクションタイプとなっている。誰にでも扱いやすく、疲れにくく、時間経過とともにタイム的に優位になる賢いパワーキャラクターだ。かつてのKLX250の水冷DOHC4バルブの高回転型とせず、今どきめずらしいほぼスクエアなボア・ストローク67×66mmと、軽くシンプルで低中速域での充填効率を優先したOHC2バルブを採用する。全開よりもパーシャル時間が圧倒的に長いオフロードの現場を直視している。高回転域でも振動は気にならず、メカノイズも空冷と思えないほど静かで排気音も心地いい。重心位置の最適化とフレームの剛性バランスがよく、正立フロントフォークゆえに手への衝撃が少なく、速度を上げやすい。タイトコーナーの連続やガレたコースでは北米市場で体重80kg以上を想定した前後サスペンションのバネレートを下げれば、かなり速いマシンに変身すると期待が膨らむ。実はコーナリング中のステアの落ち着きにも驚いた。前輪切れ込みによる転倒例がビギナーには多いが、車体がコンパクトなのに操舵は速度域や路面状況の影響を受けず、自然な動きのリンク式リヤサスペンションと相まって高い安定性を発揮する。
極低速域でもパワーが制御しやすく、45度の一般的舵角だがKLX250より75mmもショートな1360mmの軸間距離によって回転半径は小さい。さらに、300mmもあるロードクリアランスも含めて、ハードセクションでも存分に楽しめそうだ。
KLX230Rは精悍・コンパクトだがエンジンと車体の巧みなまとめ込みにより、このクラスで体験できなかった極めて上質かつタフな戦闘力を手にした。
全てが自然な動き。オフロードを遊びつくせ!
そんなレーサーのKLX230Rの血統を公道用にシフトしたKLX230のテイストも期待を裏切らなかった。エンジンパワーは同等だがさらに滑らか。バランサーの効果は絶大だ。6速は若干ロングなギアレシオで高速移動に便利な設定である。250フルサイズにはないハンデをこれでカバーしている。サスストロークは前220mm、後223mmとKLX230Rより約30mm短いため足着き性は気にならないし、場所とタイヤによってKLX230Rより積極的にダートを攻める気になる初心者も多いだろう。
驚いたのはABSだ。ダートで何度も前後輪同時や前輪側のみフル制動にトライしたが作動ショックがなく実に秀逸な作動だ。このABSはダートでも公道でも安全性に欠かせない。ABSは作動オフにできないが、これなら一般的な走行でオフにする必要性を感じないだろう。
KLX230の主たる販売ターゲットはカンボジアやタイなどのアジアとのこと。ゆえにヘッドライトは威風堂々と見える大きさを選択するが、バルブ切れを補修しやすく、維持コストが安く、守備範囲が広い適切な色温度のハロゲン式を採用する実利的な設定となっている。明るく大サイズのウインカーも非視認性にすぐれる。KLX230はオフロード走行の初心者に最適なだけではなく、普段の足にも便利。ビッグバイクのパワーに翻弄されそうなライダーには必需のサプリメントにもなる期待のバイクだ。
ライディングポジション
KLX230
KLX230R
KLX230&KLX230Rの主なスペック
車名 | KLX230 | KLX230R |
---|---|---|
全長×全幅×全高 | 2,105×835×1,165(mm) | 2,045×840×1,200(mm) |
軸間距離 | 1,380mm | 1,360mm |
シート高 | 885mm | 925mm |
車両重量 | 134kg | 115kg |
エンジン | 空冷4ストロークOHC 2バルブ単気筒・232cm3 | |
ボア×ストローク | 67.0×66.0(mm) | |
最高出力 | 14kW(19ps)/7,600rpm | 14kW(19ps)/8,000rpm |
最大トルク | 19N・m(1.9kgf・m)/6,100rpm | 20N・m(2.0kgf・m)/6,000rpm |
燃料タンク容量 | 7.4ℓ | 6.5ℓ |
タイヤサイズ | (F)2.75-21(R)4.10-18 | (F)80/100-21(R)100/100-18 |
本体価格 | 45万円 | 47万円 |
柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
https://kashiwars.com