ヨシムラ
2018年9月、カワサキはオートポリスにヨーロッパ勢に日本人を加えたジャーナリストを招待し、新型Ninja ZX-10RRの試乗会を開催した。開発担当エンジニアに加え、SBKチャンピオンのジョナサン・レイも出席するという充実した試乗会となった。
インプレッションマシン「Ninja ZX-10RR」
新型10Rのデビューは鮮烈
Ninja ZX-10Rは2019年型で、3バリエーションの全てが刷新される。ただ、その内容に、変更点がさほど多いわけでない。今回、オートポリスで試乗したサーキット指向の強いNinja ZX-10RRには、フィンガーフォロワーロッカーアームに加えチタンコンロッドが投入されるが、スタンダードの10Rと上級型のNinja ZX-10R SE(以下、SE)に関しては、チタンコンロッドは採用されておらず、フィンガーフォロワーロッカーアームの採用が目立った変更点である。
しかし、そのことに合わせて電子制御などが見直され、走りは画期的に高水準化している。10RとSEには未試乗ながら、RRのパワーフィーリングやコントロール性から察して、基本特性はRRに準じていると見て差し支えない。
2004年に登場したNinja ZX-10Rは、強くて速くてカッティングエッジというキーワードを連想させ、ある意味、一世代前のカワサキそのものだったと思う。それが2011年型で見直され、コントロール性やライダーに対する優しさが秀でたモデルに大変貌した。尖ったものが排除され、エンジンの上質なスムーズさは他を凌駕していた。さらに2016年型で、走りはさらに高次元化されてきた。
新しい2019年型は、2011年型の血を引く2016年型からの正常進化形である。しかし、それに留まらない新世代形だとさえと思えてくるのである。
扱いやすいことに加えストレスを感じさせない
力強くても、そのことを決してひけらかさず、優しくて扱いやすいパワーフィーリングは、この新型でさらに磨きがかけられている。
フィンガーフォロワーロッカーアームの採用によって、ハイカムの採用が可能になり、全域でのトルクアップが実現されているのだが、唐突さはなくて扱いやすく、むしろそうとは感じさせない優しさである。
4,000rpmぐらいまで回転が落ちても、メリハリよくサーキット走行をこなせることで、トルクフルさが分かるといった具合なのだ。それでいて、コーナーのなかで、レッドゾーンが始まる14,000rpmまでを使って走っても、ギクシャクすることがなくスムーズなままだ。
驚くべきワイドレンジぶりなのである。これならワインディングでも楽しみやすいはずである。このスムーズさと扱いやすさには、さらなる電子制御の進歩もあるのだろう。
それはスロットルオン時だけでなく、オフ時でのエンジンブレーキ調教にも目を見張るものがある。本来なら2速が適当と思われるコーナーに1速で突っ込んでも、リヤがホッピングすることがないばかりか、過激なエンジンブレーキもなくスムーズそのものである。それでいて、3速で走ってもエンジンブレーキがそれなりに利いて、メリハリも感じさせてくれるではないか。
また、全バリエーションにアップダウン両利きのオートシフターが投入されており、コースの難所においても確実なシフトが可能だ。
しかも、このNinja ZX-10RRにはチタンコンロッドが採用されている。コンロッドが軽いためフリクションが小さく、最高出力が10RとSEより1ps高いのだが、基本的な出力曲線に差異があるわけではない。
ただ、フィーリング上、どこまでがフィンガーフォロワーロッカーアームの効果で、どこからがチタンコンロッドによるものなのか、判断し切れない。とは言え、13,500rpmで発揮される最高出力の出方に唐突さがなく、フリクション感なく、204psにストレスも気負いも感じさせないのは事実である。また、レッドゾーンが始まるのは従来型と同じ14,000rpmだが、そこに達するまでの伸び感が心地よいのは、軽いコンロッドの恩恵もあるのだろう。
コンロッドは、ピストンと同じく往復運動する部分と、クランクと一緒に回転する部分から成り立っているわけで、ピストンが軽いことによるスムーズさと、クランクが軽いことによるシャープが備わっている。
そのため、車体とハンドリングが軽くなったような印象さえある。このRRでピットロードをノロノロと走っても、実に軽快で素直だ。コーナーの立ち上がりでも、ラインをニュートラルにトレースしやすい気さえする。また、シャープになったレスポンスに対して、姿勢変化が過敏にならぬよう、リヤショックは圧減衰を高める方向でリセッティングされているという。
トータルバランスとしての煮詰めにも抜かりはないわけである。
乗って楽しいカワサキ車この10Rもそうだ
Ninja ZX-10Rは、すごさを押し殺し、扱いやすさを前面に押し出した作り込みを受けている。マシンのフィーリングも、総じてエッジ感がなく、モワーッとしているとも感じる。でも、レースレベルでの走りでは、要らぬエッジ感はノイズになりかねないわけで、だからこそ安心して攻め込めるし、これがフィードバックのよさにも繋がっているのだと思う。
ただ、そうなると、Ninja ZX-10Rはサーキット走行に特化していて、無機質でおもしろくないバイクであるかの誤解を与えてしまうかもしれない。
でも、はっきり言って、そんなことはない。ベースに優しさがあるから安心してスポーツする気にさせられることもあるが、他のカワサキのロードスポーツ同様、乗り手のコントロールに生き生きと応えてくれて、楽しくなってくる。
試乗では、開発テストライダーの清水和樹さんの走りを後ろから見せてもらう機会があったのだが、彼の走りは開発テストライダーらしく、マシンがどう動こうとするかを見る走りと、積極的にマシンコントロールする走りを使い分けていた。とくに舵角を入れて曲げるための腰と体幹の身体操作が、彼ほど明確な人はあまりいない。速く走ることよりも、マシンの潜在能力を見極める走りだ。カワサキには、「バイクはおもしろくてナンボ」との土壌があるのかもしれないと思った試乗だった。
試乗コース:オートポリス
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。