ヨシムラ
すでに2018年モデルでKECS(カワサキエレクトロニックコントロールサスペンション)装備のNinja ZX-10R SEが送り出されていたが、2019年モデルでNinja ZX-10Rシリーズがリファインされたのを受け、“SE”も刷新された。改めてショーワ製電子制御サスペンションの威力を思い知らされることになったのであった。
ワイドレンジ化に貢献するKECS
Ninja ZX-10R SEで走り出し、10Rってここまでフレンドリーだったのかと自問自答してしまった。まるで、ワインディングを照準にしたNinja ZX-6Rに近い親近感である。明らかにサスペンションがよく動いていて、要らぬ緊張感を与えないし、軽い身体の動きにもマシンが反応してくれるので、気持ちよく爽快に流していくことができる。それでいてワインディングでは、やっぱりスーパースポーツだ。ビシッとコーナリングが決まる。
2019年モデルのNinja ZX-10Rには、もっともレース指向が強くチタンコンロッドを採用したNinja ZX-10RRにオートポリスで試乗し、その秀逸ぶりをお伝えしているが、チタンコンロッドでなくても、Ninja ZX-10Rシリーズの走りに磨きがかかっていることを実感したしだいである。
しかし、ここまで取っ付きのよさとコーナリング性能を両立しているのは、やはり電子制御サスペンションKECSの成せる業であるに違いない。
昨今、スーパースポーツにもこうした電子制御サスペンションを採用するモデルが増えている。面倒だったセッティング作業をハンドルスイッチだけで行なえることも確かである。ただ、僕はこれらに満足していなかったことも事実である。しっくりこなかったのだ。マシンが慣性力を受けてサスペンションが動き始めても、減衰力もすぐには立ち上がらず、応答の遅れを感じてしまう。制御の結果としてツジツマが合っているのだが、その過程における無意識の期待と合致しないのである。
ところが、このショーワのイーラ(EERA)と呼ばれる電子制御サスペンションを採用したKECSときたら、応答の遅れをまったくと言っていいほど感じない。応答速度は、既存のものとは桁違い、いや二桁違いだとも聞く。だから、違和感をいっさい覚えることなく、その状況のベストセッティングが提供されているというわけだ。
さらに感心させられたのは、KECSの設定をロードからトラックに変えたときだ。第一印象として友好的なストリートスポーツを思わせたNinja ZX-10Rが、レーサーレプリカ然としたマシンに急に変貌。制御の応答性がいいから、マシンキャラクターまでを変えてしまったのだ。積極的な荷重コントロールに対してシャープに反応する。設定がロードのときよりも、マシンが小さく感じるほどである。
こうした両セッティングを自分で見出すのもおもしろいが、これなら、カワサキのテストライダーの推奨設定を即座に呼び出すことができる。スーパースポーツがまた身近になった印象さえある。
ライディングポジション
ミラー後方視認性
電制サスの設定変更
Ninja ZX-10R SEの電子制御サスペンションKECSは、以前紹介したニンジャH2 SX SE+のそれと基本的に同じだが異なる点もある。フロントフォークのベースが“SX SE+”は一般的なカートリッジ式だが、“10R SE”はバランスフリー式であること。そして“SX SE+”の減衰特性がライディングモードとリンクして設定されるのに対し、“10R SE”ではKECSは独立して設定されることである。それぞれのモデルに合わせた設定なのだ。
主なスペック一覧
全長×全幅×全高 | 2,085×740×1,145(mm) |
---|---|
軸間距離 | 1,440mm |
シート高 | 835mm |
車両重量 | 208kg |
エンジン | 水冷4ストロークDOHC 4バルブ並列4気筒・998cm3 |
ボア×ストローク | 76.0×55.0(mm) |
最高出力 | 149.3kW(203ps)/13,500rpm |
最大トルク | 114.9N・m(11.7kgf・m)/11,200rpm |
燃料タンク容量 | 17ℓ |
タイヤサイズ | (F)120/70-17 (R)190/55-17 |
価格 | 265万6,800円(税8%込・当時) |
和歌山 利宏
バイクジャーナリスト。バイクメーカーの元開発ライダーで、メカニズムからライディングまで、自身の経験にもとづいて幅広い知識を持つ。これまでに国内外問わず、車両のインプレッションも数多く行なっている。