ヨシムラ
まるで往年のW1を思わせるようなノスタルジックなスタイルを踏襲し、発売当時から注目を集め、今日に至るまで高い人気を誇るW650。まさしく現代のカワサキを代表する空冷パラレルツインモデルの1台だといえよう。
完成度の高さが際立つロングセラーモデル
いわゆるネイキッドブームの火付け役として、日本中に一大旋風を巻き起こした1989年のゼファー発売からちょうど10年。カワサキはその成功をもとに同様のコンセプトで開発、すでにリリースしていたエストレヤをデザインベースに、ノスタルジックなテイストを取り入れた新たなモデルを1999年にリリースした。往年の名車W1を彷彿させる空冷OHCバーチカルツインエンジンを搭載したW650の誕生である。
それは当時の技術者いわく「まず空冷の綺麗なエンジンを作ることから始まった」というだけに、エストレヤ以上に作り込まれた美しいエンジンを搭載するもので、その造形美を手に入れるために欧州の博物館を視察、デザイナーによる数百枚ものスケッチの中から選りすぐった最高のデザインを採用したというものだという。
もちろんその技術者たちのこだわりはエンジンだけでなく、クラシックなスタイルながら現代風にアレンジされた車体まわりにも見ることができる。
一見スタンダードな丸パイプかと思いきや、強度を確保するためメインフレームに角パイプを採用しているダブルクレードルフレームなどがその最たるものといえるが、前後サスペンションについても、やや硬めのセッティングがほどこされたフロントフォークや、イニシャル5段階調整機構を持つセッティング幅の広いリヤショックには、それぞれフォークブーツやブラックペイントされたアウターカバーなどのパーツを装着することにより、あくまでクラシックなイメージを演出しながら、現代的なしっかりとした走行性能を発揮させている。
1999年の初期型以降、フロントフォークのセッティング変更やファイナルギヤの変更といったマイナーチェンジを受けながら、基本的には大きな変更もなく2006年に至るまで販売され続けているこのモデル。他に類を見ない完成度の高さから、おそらく今後もカワサキを代表する空冷パラレルツインモデルとして、ノスタルジックなスタイルを好むユーザーに長く愛され続けていくことだろう。
見た目以上に軽快かつ扱いやすい走行性能
W650は、そのノスタルジックなスタイルを演出するため、エンジン自体の造形美はもちろん、“振動・音質・鼓動感”にこだわり、ロングストロークのバーチカルツインエンジンにはクラシカルなキャブトンタイプマフラーを採用している。その造形に対するこだわりは、ガソリンタンクやシート、サイドカバーなどの外装パーツはもちろん、クロームメッキ加工をほどこしたヘッドライトケースや前後フェンダー、タンクに装着される立体エンブレムなど、それこそ装着されるパーツのひとつひとつすべてに徹底されている。
ちなみにそのデザインコンセプトから、実際の走りについても懐古的なものかと思われがちだが、以前、2000年モデルのインプレをお願いしたトリックスターの鶴田竜二氏いわく、「とても650ccのオートバイとは思えないというか、いきなりバーンと振り回せます。乗り始めから前後輪のトラクションを感じることができたし、排気量のわりにはとっつきやすかったですね(中略)。エンジンについては、このクラスのツインにしてはわりとシャープに吹け上がりますね。確かに低速域ではもうちょっとドコドコ感があってもよかったかなとは思いますけど。何より高速域はレッドゾーンまでしっかり引っぱっても全然ストレスがないのには驚きました」と語るように、その走行性能については、あくまで乗りやすさ、扱いやすさを重視しながら、乗り方次第ではそれなりに元気な走りが楽しめる仕様となっている。
デビュー年となる1999年当時は、免許制度の改正にともなうビッグバイクブームがいよいよ本格化してきたことから、各メーカーともハイスペックな大型モデルを次々と市場に投入。かくいうカワサキもその流れの中にあったが、ある意味その流れに逆らうような形でリリースされたW650。それは結果的に、完成度の高さから、ゼファー以来のロングセラーモデルとなり“最速のカワサキ”の時代を経てきたカワサキが、それとはまた違った形で“カワサキらしさ”を表現することになったのだった。
ノスタルジックなスタイルを演出する、オリジナリティあふれる専用パーツ
単純に速さを求めるスポーツモデルと異なりあくまでその造形美にこだわったパーツを採用しながら、扱いやすさを重視したうえで必要にして十分な走行性能を実現しているW650。当時の騒音規制に対応するため、膨張室のひとつひとつで排気パルスを壁に当てることにより、消音効果を高めているキャブトンタイプのマフラーや、バルブの駆動にシャフトとベベルギヤを組み合わせた新型エンジンの採用など、各部には機能とデザインを両立するための数多くの工夫が見られる。開発当初はローハンドル仕様のみ設定していたが、途中からアップハンドル仕様も同時開発。発売時にはその2タイプをラインナップすることになった。
主なスペック一覧
車名(通称名) | W650 | |
---|---|---|
型式 | BC-EJ650A | |
全長x全幅x全高 | 2,180mm×905mm(780mm)×1,140mm(1,075mm) | |
軸間距離 | 1,465mm | |
最低地上高 | 125mm | |
シート高 | 800mm | |
キャスター/トレール | 27° /108mm | |
エンジン種類/弁方式 | 空冷4ストローク並列2気筒 / SOHC 4バルブ | |
総排気量 | 675cm3 | |
内径x行程/圧縮比 | 72.0mm × 83.0mm / 8.6:1 | |
最高出力 | 35kW(48PS)/6,500rpm | |
最大トルク | 54N・m(5.5kgf・m)/5,000rpm | |
始動方式 | セルフスターター/キックスターター | |
点火方式 | 電子進角式トランジスタ | |
潤滑方式 | ウエットサンプ | |
エンジンオイル容量 | 3.0 L | |
燃料供給方式 | キャブレター KEIHIN CVK34 ×2 | |
トランスミッション形式 | 常噛5段リターン | |
クラッチ形式 | 湿式多板 | |
ギヤ・レシオ | 1速 | 2.294(39/17) |
2速 | 1.590(35/22) | |
3速 | 1.240(31/25) | |
4速 | 1.000(28/28) | |
5速 | 0.851(23/27) | |
一次減速比 二次減速比 | 2.095(88/42) / 2.466(37/15) | |
フレーム形式 | ダブルクレードル | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック(インナーチューブ径 39mm) |
後 | スイングアーム(オイルショック) | |
ホイールトラベル | 前 | 130mm |
後 | 105mm | |
タイヤサイズ | 前 | 100/90-19M/C 57H |
後 | 130/80-18M/C 66H | |
ホイールサイズ | 前 | 19×2.15 |
後 | 18M/C×MT2.75 | |
ブレーキ形式 | 前 | シングルディスク 300mm(外径) |
後 | ドラム(リーディングトレーリング) 160mm(内径) | |
ステアリングアングル (左/右) | 37°/ 37° | |
車輌重量(乾燥) | 195kg | |
燃料タンク容量 | 14 L | |
乗車定員 | 2名 | |
定地燃費(2名乗車時) | 37.0km/L(60km/h・国土交通省届出値) | |
最小回転半径 | 2.7m |
※掲載当時から一部表現を修正しています