ヨシムラ
かつてフラッグシップとは排気量・最高出力・最高速度をイメージしたが、このNinja ZX-10Rから変わった。ZX-10Rは突き詰めたデザインと性能で他車との完全な違いをアピールするために生まれてきたのだ。
9Rからの完全なる決別。まったく新しい挑戦
“もっとも高度な運動性能を持つカワサキフラッグシップとして存在すること”“主義主張のある明確なデザインセンスを表すこと”。ZX-10Rに課せられた命題はわずかこの2つだったのではないか。
商品ラインナップの流れで言うとZX-10Rの前身モデルはZX-9Rであった。だが、ZX-9RとZX-10Rは完全に切り離して考えるべきである。初代から最終型にいたるまでZX-9Rは600ccクラスの車格にリッターバイクのポテンシャルを目標として作り込まれたものであり、スーパースポーツでありながら常にツーリングユースを視野に入れた作り込みなのであった。
ZX-9Rはカワサキらしい個性も同時に備えていたが、過激な運動性よりも実用的な扱いやすさを重視したスーパースポーツスタイルであった。たとえば前傾姿勢になるライディングポジションでありながらステップ位置がそれほど後ではなく高すぎないもの。つまり長時間乗って、はじめてその価値がわかるような設定であった。
だから、どちらかというとライバル他社よりも大人しいイメージでとらえられたかもしれない。カワサキはZ1で始まった900ccという排気量にこだわりがあり、ホンダを除くライバル他社が最初から1,000ccを選択していたことも手伝って動力的なハンデはぬぐえなかった。といってもサーキットのような限られた場所でのコンマ数秒の差であり、ユーザーにフレンドリーで実用的な速さではまったくひけを取っていなかった。
そんなカワサキが新しい1,000ccスーパースポーツを作るときに、ZX-9Rをそのままリッターバイクにすることはなかった。かつて1980年代初頭に世界GPで暴れていたカワサキがモトGPとして参戦復活を表明したことがまず背景のひとつ目にあった。まずは4ストローク・リッタークラスのモトGPで勝つためのエンジンレイアウトとして選んだのが伝統的なインライン4であった。しかもクランク、メイン、カウンターの3軸を三角配置として極限までコンパクトにしたエンジンによって超コンパクトな車体まで導き出せたのもモトGP参戦による新しい技術とその発想力によるものであった。
ライバルの動きを気にするのではなく、純粋にカワサキの技術として創造したもの。レース専用ではなく、現実のわれわれの世界に通じる技術をレースというフィールドで証明しているのだ。この姿勢から生まれた最強のDNAを持つことこそがカワサキフラッグシップモデルたるゆえんではないか。排気量や最高出力といったスペックで追うだけではなく作り込みの姿勢までもがすでにフラッグシップモデルとして問われる資質になっているのだ。
そしてもうひとつ絶対に欠くことのできないテーマ。それがモーターサイクルデザイン。最近のカワサキの革新ぶりを語るときにデザインを抜きに語れないのである。
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柏 秀樹
自身が主催するライディングスクール、KRSを主な活動としつつ、雑誌やDVDなどのメディアで、ライディングテクニック講座や車両インプレッションを行なっている。KRSはオンロードからオフロードまで、週2〜3回のペースで開催されている。
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